11 / 75

第11話

 私、どうしてしまったんだろう――。  さざめきのような宴の声が、鼓動の隙間に差し込んできた。ああ、もうすぐお別れなんだな。  きり――。  胸に、針が刺さったような痛みが走る。  なんで――。  わからない。  わからないけれど、近貞との別れを惜しいと思っている事だけは、わかる。それがどうして、痛みになるんだろう。  そっと、宴の席の傍で下された。庭木の陰になって、音は聞こえるけれど姿は見えない場所。そこに、まっすぐに二人で向き合って立っている。 「かぐや殿」  そういえば、名乗っていないままだった。どこの誰だかわからければ、文のやり取りなんて出来ないから、名乗らなくちゃ。そう思うのに、互いの素性がわかってしまうのは、なんとなくもったいない気がした。 「かぐや殿が帰られる折に一人、こっそりと後をつける者を出す。名を、#久嗣__ひさつぐ__#と言う」 「ひさつぐ……」  繰り返した私に頷いてから 「その男に、文を託す。かぐや殿も、そうしてくれ」  確定的な提案に、近貞も素性がわかることをもったいないと思ってくれたのかな、なんて自分の都合のいいように考える。そうだとしたら、嬉しいんだけど――。 「わかった。ありがとう」 「では、また」 「ええ、また」  しっかりと、瞳を重ねて約束を交わし、私はそっと宴席へ戻った。  背中に、近貞の視線を感じる。  振り向きたい――でも、そうすれば今抱えている不思議な感情は、たちまちに消えてしまうような気がして、宴席に戻った後も、一度たりとも振り向かなかった。  ◇◆◇  近貞の言っていた久嗣という男は、ひどく軽薄そうな印象を受けた。けれど、優秀ではあるみたいで、私の世話をするために隣室で寝泊りしている#女房__にょぼう__#の萩にすら気づかれずに、私の部屋に忍んできた。
いいね
ドキドキ
胸キュン
エロい
切ない
かわいい

ともだちとシェアしよう!