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第9話

「すまぬ」  横から手が伸びてきて、潰れたお菓子を抓んで包みを開けて 「あっ」  食べちゃった――。  咀嚼して、飲み込んで、うんと頷いてから 「形は潰れてしまったが、味に変わりは無いな」  にこりとした近貞は 「俺が、かぐや殿を連れて来る折に、抱きつぶしてしまったのだろう。代わりの物を持ってくる。すこし、待っていてくれ」  言い終らぬうちに、襖を開けて出て行ってしまった。ほんと、思ったと同時に体が動いてしまうみたいね。  主のいなくなった部屋を、ゆっくりと見回してみる。最低限のもの以外、なんにもない部屋。几帳すらも置いてない。  立ち上がって、箪笥の傍に寄ってみる。何の飾りも無いけれど、しっかりとして重厚な雰囲気に、武家にふさわしい品という印象を受けた。そっとなぞってみる。――木目が美しい。  横の文机を見てみる。文机といっても、木の板に足がついただけの面白みも何もないものだけれど、そっとなぞってみると、切り出したままの木の模様をそのまま使っていることに、あたたかみを感じて趣向を凝らしたものよりも、ずっといいものに思えた。  なんだか、近貞そのものみたいな調度品。  そう思うと、胸の奥がほっこりとして口元が緩んだ。――変な男。 「またせたな」  振り向くと、にこにこと近貞が笑っている。月光に浮かぶそれは、月よりも眩しいくらいで、私の名前――朔が、新月を意味するのなら、近貞の笑顔は陽なんじゃないかなんて、つまらないことを浮かべてしまった。 「これを」  差し出されたのは、りっぱな漆塗りの重箱で 「え」  自慢げに、近貞がぱかりと蓋を開けた。 「これならば、崩れることも無いだろう」  小さな竹で区切られた中に、愛らしい形で咲いている花の菓子が並んでいる。たしかに、これなら潰れてしまう事は無いだろうけど……。
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