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第5話

 ああ、さっきの公達に、手のひらに豆が出来ていることを覚(さと)られてないわよね。指先と手の甲にしか、触れられていないもの。いくら落ちぶれたとはいえ、名門の姫が手に豆なんて作っていたら、庭を畑に野良仕事――なんて噂をされかねないし、そんなことになったら父様が肩身の狭い思いをするだろうから、気をつけなくっちゃ。  それにしても、ほんと退屈。  池に浮かんだ満月を楽しむならまだしも、わざわざ水桶に月を映して楽しむとか、よくわからない。直接に月を見れば魔に惹かれるとか、なんだとか。普段から、直接見たりしないようにしているのかしら。  そっと扇で目線を隠しながら、月を見上げてみる。まんまるで、ふっくらと白い月は吸い込まれそうに大きくて、思わず吐息が漏れた。あの月を、弓を構えて狙ってみたい。矢が、私と月を繋げる感覚は、きっと今までで感じたことが無いほどに震えるはず。そして、それが月を射止めた瞬間に弾けたとすれば――。  ぶる。  身震いをして、自分の肩を抱きしめる。想像しただけで、たまらないほど気持ちがいい。  観月の宴を催したくなるほどに、見事な月。それに、狙いを定める――――。  周囲を身回し、誰も私の事など見ていないことを確認して、扇を閉じる。古臭い人は高貴な#女人__にょにん__#が顔を晒すなど言語道断なんて言っているけれど、今は武家の地位も上がってそっちの文化も混ざってきて、女が顔を晒しても恥ずかしく無いっていうのが通例になってきてる。世の中は変化するもんなんだから、つべこべ御託を並べていないで受け入れたらいいんじゃないの?  そんなことを思いながらも、私の手はゆっくりと弓を引く形をとっていく。肩を開き、胸に添うように矢を#番__つが__#えて月を見つめる。だんだんと周囲の音が遠ざかり、景色もそぎ落とされて世の中は私と月だけになる。  ああ――。  それだけでも、なんて気持ちがいいんだろう。心臓が真綿に包まれたように心地よくて、くすぐったい。  ぱ――。  見えない矢を#抓_つま__#んでいた指を、開く。音も無く形の無い矢はまっすぐに、月に吸い込まれていく。  ああ、あ――。  仰け反り、身悶えそうになるほどに気持ちがいい。唇から、ほろりと熱い息が漏れる。体の芯が疼いて、矢が的に到着するのを待ちわびている。  ぱぁ……ん――――。
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