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第2話

「少し、胸が苦しくなりました。岸に上がりとうございます」  膝を崩して肩を落とせば 「それはいけない。すぐに、参りましょう」  若い公達は、いそいで岸に舟を向けた。ちょろいものねぇ。 「さぁ、こちらへ」  手を引かれて岸に上がる。着岸の時に上がったしぶきで濡れた草に、足を取られて 「あっ――」  思わず崩れた体を抱き止めた公達の腕は、見た目よりは逞しくて、ちょっとアリかも、なんて思ってしまった。 「ありがとう」  極上の笑みを浮かべて見せれば、若い公達の顔がみるみる赤くなっていく。ふふん。私も、なかなかイイ線いっているでしょう。  艶やかな黒髪の手入れは、父様の言いつけどおりに萩が毎朝、丁寧に梳いて椿油で艶々にしてくれる。着物は、落ちぶれているから着古したものだったりするんだけど、それでも色の袷の趣味は悪く無いと思う。顔だって、美貌を謳われたらしい父様に瓜ふたつだと言われているのだから、悪くは無いんじゃないかしら。――今の父様は、ずいぶんとお年を召されているけれど、それでも疲れた方々が目を楽しませて心を慰めるために呼ばれるらしいのだから。  ずっと、その美貌を謳われていたがために、なかなか決まった相手と結ばれなかった父様が結婚をしたのは、同年代の男たちが年頃の娘を持ち始めた頃の事。父様に心底惚れこんでいたっていう小父様、平野宗義が娘を是非にと申し出て、やっと結婚。生まれたのが、私と姉の二人姫。双子で生まれた私たちは、よく似ていると評判で、小父様が父様に瓜二つだと言ったものだから恋文が殺到。  何事にも控えめで、これぞ名家の御姫様って感じの姉様は入内なされて陛下の寵愛を受けているのだとか。  ああ、そっか。  陛下の愛妻を姉に持つ私を手なずければ、武器になるわよね。なるほど、なるほど。それなら落ちぶれ貴族の私でも、利用価値があるわけ、か――。  毛氈の上に連れて行かれて、そっと腰を下ろす。 「ありがとう」 「ああ、いえ――」  ふ、と恥ずかしげに目を伏せたこの人の名前は、何と言ったっけ。いろんな人に会わせられるし、どれもこれも似たような印象しか受けないから、判別がつかない。
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