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第1話

 月の夜に、小舟を浮かべて水面に映る月を眺める。  なんて風雅な催しなんでしょう――なぁんてことを思うような、情緒あふれる感情なんて持ち合わせていない私は、まったくもって退屈としか思わない観月の宴に参加させられていた。  一応、私の家は貴族の端くれで、名門と言われている。けれどご立派なのは家名ばっかり。実際に要職を任されていたのは、ひいひいおじい様の代までで、父様なんて暇を持て余して忙しい方々の雑用をしているだけって言うじゃない。そんな落ちぶれた家の姫でも、こうして宴に招待をするなんて、今を時めく武藤家ってば豪気よね。ま、ぽっと出の新興貴族だから、名門の血筋に媚びを売っておいて、宮中で争いごともなく過ごしていこうっていうハラなんでしょうけど。  控えめな笑い声がさざめく庭の池は、小舟を三艘浮かべても狭くないくらい広い。屋敷を作る時に、もともとの地形を生かしたというから、この池は天然のものだって言うじゃない。それを丸ごと屋敷の中に包み込んでしまうんだから、相当にお金がかかっているんでしょうねぇ。  ため息が、漏れてしまうわ。 「朔の君。いかがなされました」  舟をこいでいる公達が、声をかけてくる。あわてて扇で顔を隠して 「月の見事さに、ただただ胸があふれてしまい、息となって漏れてしまいました」  なよやかな声を出して見せれば、さもあらんと頷いた公達が 「朔の君は、ことのほか月に思い入れがある様子。船に乗られる方はいらっしゃいますかとお伺いした折に、真っ先に申し出られましたね」  気安げに櫓を掴んだまま座って、膝を進めてきた。岸辺でいろんな人の相手をするのが面倒くさいから、なんて言えるはずもなく、目元だけでにっこり笑って扇に隠れた口で舌を出した。 「私は、月よりも朔の君の見事さに、ため息がこぼれるばかりです」  げ――。  落ちぶれた家の姫なんて、これから出世をしようと思っている若い公達は目もくれないはず。だって姫の実家の後ろ盾なんて、望めないんだから。そう思っていたから、一番若そうな公達の舟に乗ったって言うのに。 「朔の君」  そっとささやいてくる声は、悪く無い。顔だって、中の上だと思う。けどでも、全体的に好みじゃないのよねぇ。
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