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今度は二人で

 指が感触を確かめるように、火照った肌を撫でる。肌にあとを刻むように、胸元に吸い付かれた。そこに鋭い痛みが走ったせいで、朦朧としていた意識が瞬時に浮き上がる。急に息苦しくなって、浅い呼吸を繰り返した。吸い付かれたあとがじんじんと熱を発している。そこに柔らかなものを押しつけられた。それを幾度となく繰り返しながら、彼は下へと体をずらしていった。  背中に回されていたはずの手が、腰をひとなでしたあとお尻へとたどり着いた。緩やかな弧を描くように撫でられて、そこから痺れに似たものが走る。体を捩らせそれを逃がそうとしたとき、すっかり力が抜けている両脚を急に抱えられた。 「あ……っ!」  抱えられただけでなく、押し広げられてしまい、熱を発しながらじくじくと疼く場所が彼に丸見えだ。羞恥のせいで、全身がより熱くなる。腰を掴まれ、ぐっと引き寄せられた。 「ちっとも変わってないな。体。肌もきれいだし。それに、ここも」 「えっ、あっ!!」  濡れた場所を指がいたずらに触れる。その感触に驚いて、思わず体をのけぞらせた。無骨な指が押し上げるように、そこを撫であげる。そして行き着いた先にある突起を突いた。その瞬間鋭い快感が体を貫き、声を詰まらせる。腰がひとりでに跳ね上がり、そのたびに聞くに堪えない粘着質な音がした。 「もうこんなに濡らして、いやらしいな美咲は」  うわずった声でそう言われ、思わず顔を背けた。だが、彼の指は、更に快感を引き出そうとしてか、そこを執拗に責め立てる。途切れ途切れに快感が体を貫く。それがどうにも焦れったかったけれど、それを口にすることができなかった。しかし体は正直だ。腰が勝手に揺らぎ出す。  結婚していた五年のあいだに、何度もその指に理性を剥ぎ取られたものだった。吐息だけでなく思考さえも奪われて、何もなくなったところに彼が襲いかかる。しかし表面的な絶頂までは行くけれど、その先にあると言われている深い絶頂まではたどり着けないままだった。でも、大好きな人と抱き合う心地よさは感じていたから、それでいいと私は思ってた。まるで熱に浮かされているような状態ではあったけれど、懐かしい指使いとそこから持たされる快感のせいで、過去の記憶が次々と浮かんでくる。それらがフラッシュバックのように頭のなかに浮かんでいるとき、予想外のことが起きた。  ももに突然柔らかな物が押しつけられた。嫌な予感がして勢いよく体を起こしてみると、彼がだらしなく開いた両脚を押さえ付けながら、内ももに口づけている。目だけを向けて笑みを浮かべる彼が、あまりにも色っぽ過ぎて、ぞくりと震えが走った。  あんな表情をするなんて知らなかった。だってセックスするとき、彼がどんな表情でいるかだなんて気にしたことなど無かったし、そんな余裕もなかったから。壮絶な色気を放つ彼から目が離せない。そうしているあいだにも、彼は内ももの柔らかい部分を軽く噛み、舌を這わせている。その間指は敏感なところをくすぐるように撫でている。  彼の指が動くたび、そこがひくひくとうごめいた。それだけでなく、その奥がしくしくと切ない痛みを伴ってうずき始める。だが、彼は観察でもしているかのような目を私に向けながら、指と舌で軽い愛撫を繰り返してばかりだった。  真綿で首を絞められるとはこのことだろう。じりじりと迫る快感の気配を感じながらも、なかなかそれはやってこない。ずっと中途半端なままで、どんどん泣きたい気分になっていた。すると彼が私を見つめたまま、脚から唇を離す。 「俺以外の男、知らないままだったのか」 「え?」 「美咲がまだ何も知らない頃 色々教えるのが楽しかったな。美咲だってまだ覚えてるだろ? もしも忘れてしまっているなら、思い出させるまでだけど」  そう言って彼は狡猾そうな笑みを浮かべたまま、じくじくと疼く場所に指をゆっくり差し込んだ。その時、彼の指を締め付けるのがはっきり分かっただけでなく、体がこわばった。彼の指が浅いところを責め立てながら、そこをかき回す。その動きに合わせて、知らず知らずのうちに声を漏らしていた。  すると次の瞬間強烈な快感が体を一気に突き抜けた。指を抜き差ししながら、敏感なところを押しつぶしたせいで、瞬く間に絶頂へ押し上げられていた。体が小刻みに震えだし、脚ががくがくとし始める。息ができない。ただ意味をなさない声をあげ、体をのたうたせることしかできずにいた。 「うれしいな、俺が教えたとおりに反応してる。これが、どんなに嬉しいことか分かるだろ?」  指の動きを早められたせいで、あと少しのところまで絶頂が迫っていた。肌という肌から汗が噴き出してきて、意識の輪郭が溶け始める。すると悦に浸ったような声が耳に入った。 「しっかり覚えているじゃないか。俺が教え込んだ通りに反応してる。かわいいな、ご褒美をあげないと」  そう言って彼は指を引き抜いた。そして再び腰を引き寄せ、覆い被さってくる。そのとき、散々指で嬲られた場所に熱い楔を打ち込まれ、意識も感覚も弾けるように飛び散った。そのとき、息もままならなくなってしまうほど強烈な快感と圧迫感が襲いかかる。それらをどうにか逃そうと体を捩るけれど、上から押さえ付けられているせいで動けなかった。  体に埋め込まれたものはとても熱くて堅かった。そしてそれは、少しずつではあるけれど、体の奥へと向かっている。夢中になって彼のたくましい腕にしがみつき脚を巻き付かせると、苦しそうな声がすぐ耳元から聞こえてきた。浅い呼吸を繰り返しながら、時折獣のような唸り声がする。 「美咲、美咲……」  切羽詰まったような声で、繰り返し名を呼ばれた。彼が首筋に顔を埋め、鼻先を擦り付けてくる。わずかながら意識が戻り、快感の余韻に浸りながら彼の頭を撫で始めた。  一分の隙もないほどぴったり重ね合わせた肌が、とても心地よく感じた。肌だけじゃない。彼の匂いも体温も、すべてが懐かしく心地良い。その時だった。体の奥で熱が一気に膨れ上がり、あっと言う間もなく弾け飛んだ。突き動かされるままに声をあげ、彼の背中に腕を回して力一杯抱きしめた。  すると彼が呼吸を乱しながら、唇を奪う。唇をこじ開けられて、肉厚な舌が入り込んできた。それに舌を絡ませると、彼がくぐもった声を漏らす。そして一気に最奥まで穿たれた。  そこから先は無我夢中だった。初めて味わった深い絶頂に我を失い、更に腰をくねらせる。彼の両頬を手で挟み、苦しそうに歪む表情を眺めながら、私は愉悦を感じていた。彼は汗をしたたらせ、劣情を滲ませた目で私を見つめている。そして噛みつくようなキスをした。それはまるで、互いの吐息と声を奪い合うような激しいキスだった。  激しいキスをし続けていると、突然彼が私の背中に手を回し、体を支えて起き上がった。彼と繋がったままだから、当然体をまたいだ格好になる。向かい合った彼は、熱に浮かされたような瞳で私を見上げていた。そんな彼が愛しくて見つめたまま唇を合わせると、急に彼が腰を突き上げてきた。  その衝撃は、それまで感じたことがなかった深い快感を引き出した。それとともに、温かいものが心に注がれて、満ち足りた気分になっていく。初めて味わった深い快感は、強烈なものではなかったけれど、渇いた大地に雨がしみこむようなものだった。それを噛みしめていると、しがみつくように抱きついている彼の体が急にこわばった。そしてお尻を掴んでいた手の力が強くなり、言葉通り鷲づかみにされる。  キスがどんどん激しくなってきて、彼の限界が近いことに気がついた。するとゆっくり体を倒される。ぎゅっと抱きしめながら、彼が腰の動きを早くした。彼の背中にしがみつき、受け入れているうちに再び絶頂が迫ってきて息が上がる。  そして私が絶頂に達した直後、彼の体がびくびくと痙攣した。獣のような声を出し、腰を一層強く押しつけてきた。ひとつに繋がった場所がみるみるうちに温かくなってきて、その感触に打ち震えつつ彼の体を抱きしめていると、意識が再び溶けていった。 「本当は、声を掛けるつもりじゃなかったんだ」  やがて落ち着きを取り戻した彼が、ゆっくりとした口調で話し出した。私たちは今、ベッドの上で向かい合っている。 「差している傘を見て、すぐにお前だって分かったよ。あの傘は二人で一緒に買った傘だからな」  ようやくインドから帰国し、その足で会社に向かおうとしていたとき、彼はつい思い出がある中庭を見てしまったらしい。そこに私がいたけれど、五年前のことがあったから声を掛けずに通り過ぎようとした。でも、差していた傘が、出会ったあの日一緒に買った傘だったから、何も考えずに声を掛けたのだという。  九年前中庭で出会った後、喫茶室でコーヒーを飲んだとき、お互いの連絡先を交換した。そして別れたのだが、その日のうちにまた顔を合わせることになる。仕事が終わって帰ろうとしたとき、ビルのエントランスで偶然再会したのだ。声を掛けると、雨が止むのを待っているようだった。  しかし雨はなかなか止まず、そうしているあいだにも時間は過ぎていった。結局一つの傘で建物をあとにして、そのまま買い物に出かけたのだが、そのときおそろいの傘を買ったのだ。そしてその傘を私は今でも使っている。 「じゃあ、私が傘を差してなかったら声を掛けなかったってこと?」  話を一通り聞いたあと尋ねると、彼は考え込んだ。そしてしばらく経ったあと、おもむろに尋ねられた。 「中庭には、毎日出てるのか?」 「ううん、たまたまよ。なんとなく出ただけ」 「なんで出ようと思ったんだ? 雨、降ってただろ」 「さあ、なんとなくとしか言えないわね。ただ強いてあげるとすれば、懐かしい気持ちになったからかしら。初めて会ったときと同じように、霧雨が降ってたから」 「じゃあ、雨が降っていなかったら、俺たちは別々の道を歩いたままだったんだな」  感慨深げに彼が話す。雨が縁で出会った私たちは、九年後雨のおかげで再会し、再び心を通わせることができた。そう思うと、ふしぎな気分になってくる。それだけでなく、体も心も満たされたせいなのか、睡魔が押し寄せてきた。  その後ひとことふたこと話しているあいだに、私は眠っていたらしい。彼の体温のせいなのか、それとも久しぶりのセックスで体力を消耗したからかは分からないけれど、夢もみずに朝までぐっすり眠っていた。  翌日には雨はすっかり上がっていた。  窓を開けると、済んだ青空が広がっていた。夜明け近くまで降り続いていた雨のおかげで、ベランダに置いていた鉢植えはみずみずしさを取り戻し、青々とした葉を伸ばしている。それを眺めていると、背後から声を掛けられた。 「こら、風邪引くぞ」  振り返ると、シャワーを浴び終えたばかりの彼が、ガウン姿で近づいてきた。そして背後から抱きしめられる。二人でしばらく空を眺めていると、彼が唐突に話し始めた。 「今日、籍を入れよう」  突拍子もないことを言われてしまい、慌てて振り返ると、左手を突然持ち上げられた。そして指輪がはめられる。それを見ると、見覚えのあるデザインだった。彼を見上げると、照れくさそうに笑っている。その姿は、抱き合ったときの彼とは別人のようだった。  五年ぶりに抱き合ったとき、はっきり分かった。まだ彼を愛していることを。  そしてずっと埋められなかった寂しさがあったことを。  幾ら友人たちに囲まれていたとはいえ、どうやっても埋められないものを抱えていたのだろう。そこに温かなものが注がれて、空洞が埋められていった。そして、これが二人にとっての本来あるべき姿だと実感したのだ。だから迷わなかった。 「結婚指輪、買い直さなきゃ。それにみんなに知らせないと」  薬指にはめられた指輪を撫でながら彼を見上げると、笑顔を向けられていた。 「婚姻届用意しとく。帰りにどこかで待ち合わせして、一緒に出そう」 「その前に証明してくれる人、探さなくちゃ。お互い二人ずつ」 「そうだな。きっとみんな驚くだろうな」  彼に抱きしめられながら、これからのことを考えた。まずは互いの親に報告しなけらばならない。それに友人や上司にも。彼が言うとおり彼らは大いに驚くだろう。離婚した理由を彼らは知っているのだし、その説明は欠かせない。それを考えると、急に頭が痛くなる。 「今日はお互い忙しくなりそうね」 「そうだな。あと、できるだけ近いうちに、病院に行こう」 「どうして?」 「今度は二人で子供を迎える準備をしよう」  その言葉を聞いたとき、胸がじんと熱くなった。しかし、これから治療を始めても、喜ばしい結果が出るとは限らない。それに、不妊治療は肉体的な限界よりも、精神的な限界を感じて打ち切る人も多い。  子供が欲しくて不妊専門の病院へ行ったとき、自分と同じように不妊の悩む女性が多いことを知った。そして望んだ結果が得られず、打ちひしがれている女性たちの姿を目にするたびに、厳しい現実を突きつけられている気がして辛くなった。不妊治療をしていると、ともすれば妊娠・出産がゴールと勘違いしてしまう。けれど、それらは始まりに過ぎないのに、そう思うようになっていくのだ。  結婚したら子供が出来るのは当たり前なことではない。奇跡に近い確率で子供は親のもとへやってくる。  だが、結婚したら子供が出来て当たり前という価値観を、無遠慮に押しつけてくる人間もまだまだ多い。  これから、そういうものを目にする度に、傷つくこともあるだろう。でも、そうなったって愚痴を聞いてくれる友人たちがいる。ついでに言えば八つ当たりできる上司もだ。それに何より彼がいる。彼と離れていた五年のあいだ、私は随分たくましくなったと思う。だから今度はやるだけやろうと思った。  もしも子供が出来なかったら、その時はその時だ。夫婦二人で寄り添い合って生きていけばいい。  そんな私達のことを哀れむ人もいるかもしれないが、私と彼が幸せならばそれでいいのだ。  返事の代わりに体をすり寄せると、抱きしめる腕が強くなった。  そしてしばらくのあいだ、私たちは抱き合ったままで晴れ渡る空を眺めていた。
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