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雨のあとは、きっと良い日が来る

 ロンドンへ旅立って一ヶ月後、彼は約束通り帰国した。  半年間にわたる長い出張が終わりを告げた直後、私達は一緒に暮らし始めた。体力バカの彼に付き合うと、決まって翌日足腰が立たなくなる。それでもどうにか仕事に行くが、よろよろしながら席につく私の姿を見て麻音子が顔を赤くさせる。そして決まって滋養強壮剤をそっと机に差し出すものだから、なぜ私がこんな状態になっているのか、彼女は分かっているに違いない。  しかしそんな日々であっても、以前に比べれば平穏そのものだ。しかし事件というものは、穏やかな毎日に一石を投じるように、ある日突然起きるものだ。  まず麻音子が体の不調を訴えだしたのが、全てのはじまりだった。午前の仕事を終えたあと、いつものようにランチへ行くと、彼女がけだるげにため息をつく。その様子が気に掛かり尋ねるてみると、近頃体調が安定しないという。  食欲がないからはじまって、だるくてたまらないという。そして近頃生理が遅れているということだった。そんな症状を聞かされて、真っ先に思い浮かぶのは妊娠だ。結婚して一年を迎えた夫婦のもとに、ようやく天使がやって来たと誰でも思うに決まってる。とにかく早めに検査するよう促すと、彼女は照れながらも嬉しそうにほほ笑んでいた。その姿を見ていると、こちらも幸せな気分になってくる。  しかし彼女からその症状を聞かされて、実は動揺していた。それというのは、その症状すべてに悩まされているからだ。その日私はどきどきしながら、妊娠検査薬を使ったところ、結果は陽性。妊娠していたのだ。  彼が帰国したあとすぐしたことは、互いの親に会うことだった。そして結婚を前提にした同棲を始めることを話しているし、万が一妊娠しても驚くかもしれないが、きっと喜んでくれるはず。初めての妊娠に不安を抱いたけれど、心を奮い立たせて、まずは彼に報告した。  すると彼は目を大きくさせたあと、何も言わずに私を近所の病院へ連れて行った。連れて行かれた病院の扉を開くと、驚くべきことにそこに麻音子と彼女の夫がいて、私たちは互いの妊娠を同時に知ることになった。  その日から数ヶ月後私と彼は、小さな結婚式を挙げた。ウェディングドレスに着替え終えたあと、膨らみ始めたおなかを撫でたとき、急にある言葉を思い出した。それは亡くなった母から繰り返し聞かされた言葉だった。 『雨のあとは、きっと良い日が来る』  振り返ればこの日を迎えるまで、いろんなことが起きた。それらを一つ一つ思い出してみると、その言葉の意味が身に沁みる。  きっとそう遠くない未来、生まれてくる子に、母親から教えられた言葉を伝える日が来るだろう。  そのときが来るのを楽しみにしながら、夫となる人が待つ礼拝堂へ向かったのだった。
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