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私はあなたを愛すためにある

 初めて男の象徴を目にしたとき、これが本当に自分の中に入るのか不安だった。そして今そのときのことを思い出している。何せ初めて目にした彼のものが、とても太くて長かったから。それは腹にくっつきそうな程しっかり立ち上がり、天を向いている。  避妊具を付け終えた彼が、汗をしたたらせた顔を私に向けて迫ってくる。向けられた瞳はとても鋭いもので、表情も今まで目にしたことがないほど険しいものだった。まるで野生の獣だ。物音一つ立てずに、じりじりと間合いを詰めながら肉食の獣が近づいている。  四つんばいになりながら迫る彼からは、壮絶なまでの色気と圧倒的な威圧感が漂っていた。体が竦む。声が出ないばかりか、息が詰まる。眼前にまで迫った彼が、大きな手で私の頬を撫でた。頬をなぞる親指の動きが優しくて、それにほっとした途端に、体から力が抜けていった。頬を撫でながら、彼は触れるだけのキスをする。そして、ゆっくりと体を倒された。  湿ったシーツに背を預け、彼と口づけを交わしていると、どうにも切ない気持ちになってくる。やがて口付けは深くなり、舌を絡ませた。鋼のように鍛えられた背中に腕を回し、筋肉で盛り上がったところに手を添えた。  すると腰をゆっくりと押しつけられた。硬くて熱いものが、それを受け入れる場所に触れる。そのとき、その熱に呼応するかのように、体の奥がじんと熱を帯びただけでなく、何かがしみ出した。そして入り口にひたりとあてがわれたとき、その感触に震えが走った。ゆっくりと体を開かれる。 「ん……っ」  重ねた唇から声が漏れた。濡れた唇に彼のしめった息が掛かる。何かに耐えるように、彼が声を押し殺した。そして熱の塊が少しずつ入り込んできた。彼が息を詰める。汗で濡れた背中にしがみつくように、迫る圧迫感に耐えた。それはもどかしくなるほど、ゆっくり時間をかけて中にはいってくる。頭上からシーツを握りしめる音がした。  それは浅いところでいったん進みをやめて、緩やかな抜き差しをし始めた。引き抜かれると力が抜けるし、押し込まれるとその圧迫感のせいで体がこわばる。でも何度かそれを繰り返しているうちに、それらはなくなっていた。彼もそれに気がついたのか、抜き差しを繰り返しながら奥へと向かっていく。やがて押し広げられたところがじくじくと疼き出したと同時に、圧迫感は薄れていった。 「もうちょっと時間をかけて解すべきだった……」  彼が息を詰めながら唇を離した。そして悔しさを滲ませた声を出す。恐らく自身の半身が大きいことを自覚しているから、あれほど時間をかけていたのだろう。そして彼が乗り越えたいものがなんであるか、分かったような気がした。そしてそれが原因で、過去になにかしらあったことも。だから、安心させたくて笑顔を向けた。 「大丈夫。ゆっくり、すれば、慣れてくるものらしいから」  そう言いながら彼の背中を撫でると、彼が長い息を吐き出した。 「きつくないか? 痛いとか」 「ううん。平気」  気遣ってくれる彼が愛しくて、背中を撫でていた手で抱きしめた。すると急に背中がびくっと硬直し、彼が獣のような低い声を漏らす。 「みずき……」 「ど、どうしたの? 苦しいの?」 「いや、そう、じゃなくて、だな……」  耳に掛かった息はとても熱かった。彼の様子がおかしいことが不安で、背をさすりながら次の言葉を待っていると、くぐもった声が耳に入ってきた。 「あんまり、締め付けると、だな……。もたない。全部入るまで」  その言葉を聞いた瞬間、全身がかあっと熱くなった。いたたまれない気分になってしまい、どうしたらいいか分からなくなった。締め付けないようにするには、どうしたらいいのか分からない。だから取りあえず深呼吸を繰り返したが、どうやらそれは逆効果のようだった。彼の背中が小刻みに震え出す。 「待て、止めろ。まずは深呼吸を止めろ」 「へ?」 「みずきは何もしなくていい。俺がこらえ性がないだけだから」 「い、いまどのくらい、その、入ってるの?」 「まだ半分だ。くそっ、やはりもうちょっと我慢して、時間をかけて解すべきだった」  悔しそうにつぶやく彼。そんな言葉を聞いてしまったら、覚悟を決めるしかないじゃない。女は度胸よ。 「一気に入れちゃっていいから」 「は?」 「あと半分なんでしょう? だったらもう少しじゃない。だから、ね?」  薄れたとはいえ、圧迫感は全くなくなっていない。そんな中、一気に奥へと差し込まれたら、痛みもあるだろう。でもきっとその痛みを、今の私なら受け止められる。そう思った。 「本当にいいのか?」 「うん、いいよ」 「痛いっていっても、止められないかもしれない」 「初めてのときよりかは痛くないと思うの」  すると彼が体を石のように、硬直させた。ただならぬ雰囲気を感じ取り、非常に気まずい空気をも感た。 「あ、あの……」 「そうか。俺の前にもみずきとセックスしてたやつがいたんだった……」  抱きしめているから、表情こそ見えないが、容易にどのような表情をしているのか分かる。分かりやすいほど落胆を滲ませた声でつぶやいたあと、彼は深い深いため息を吐き出した。つまり私の「初めて」になれなかったことが不満らしい。  とはいえ、初めてのセックスは痛いだけだったし、それに今までのセックスより時間をかけて愛されたから、初めて絶頂に達したわけで……。 「あ、あのね。そりゃ今まで誰とも付き合ってこなかったわけじゃないよ? その人とセックスもした。でも、こんなに気持ちのいいセックスは、その、初めてでした……」  するとうなだれていた彼が、勢いよく体を起こした。目を大きく見開かせて。 「本当か?」 「う、うん。本当よ?」  問いかけに答えると、いきなりぎゅっと抱きしめられた。 「じゃ、俺は初めての男になれたってことか?」 「え?」 「みずきにとって気持ちのいいセックスの初めてにってことだよ」  嬉しそうな声だった。それに頷いて応えると、更に強い力で抱きしめられて、唇を塞がれた。 「じゃあ、一気にいくぞ」  そう言って彼は両脚をたくましい肩に担いだ。端から見なくても恥ずかしい格好ではあるが、一気にいくためにはこれがベストポジションらしい。彼の太い首に腕を回すと、それを合図に彼が腰を押し込んできた。そして唇を重ねられる。熱い舌が差し込まれ、それに舌を絡ませて、押し寄せる衝撃と圧迫感から気を逸らした。  はじめの頃こそ痛みが走ったけれど、我慢できないほどの痛みではない。ここまでくるまでに、いろんなことがあったけれど、ようやく彼とひとつに繋がることができた。  彼と身も心も一つになって、満ち足りた気分でいたときに、ある言葉を思い出した。それは亡くなった母親から、教えられた言葉だった。 『セックスは、言葉にできないものを伝え合う行為であり、愛する喜びと愛される喜びを得られるものなの。だからね、その人のことがもっと好きになるし、愛された自分のことも好きになるの』  確かに母が教えたくれた通りだった。彼のことがもっと好きになったし、私自身のことも好きになれた。ようやく忘れていた言葉を思い出せたことが嬉しくて、それを彼に伝えると、とても嬉しそうな顔を向けられた。その笑顔を見て、私はとても幸せな気分になっていた。
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