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第56話

「両方が、私で僕だから。……優斗の方も、八重ちゃんに覚えてもらえるように、がんばらないと」  おどけた様子に、八重子がクスクスと鼻を鳴らせば、優斗が喜びを伝えようと唇を合わせる。八重子はまだ、相手が男性であることが半分信じられなかった。けれど、なめらかな肌の下にある骨格が、男であると示している。何よりも体の奥で、男である証拠を感じて受け止めたのだと思った瞬間、気恥ずかしさに体が熱くなった。 「八重ちゃん?」 「あ、ううん。なんでもない」 「なんでもなくて、真っ赤になるの?」  からかう声音に親しみと愛しみを感じ、八重子はさらに赤くなった。 「その、石渡先輩とは、どうして」  ごまかそうと口を突いて出た言葉に、八重子はハッとした。 「そうよ。……どうして、石渡先輩とあんなふうに、親しげにしていたの?」 「ああ、それは」  今度は優斗が赤くなった。 「もうすぐ、理由が判るから」  どういうことかと首を傾げる八重子の瞼に、優斗の唇が触れる。 「その時までの、楽しみに取っておいて」  よくわからないけれど、そうしようと八重子は思った。  優斗の笑みが、慈愛に満ち満ちてあたたかかったから。 「美優ちゃん」 「優斗」 「……優斗、くん」  はにかみながら呼び直せば、褒めるように唇が重ねられた。  美優は翌日、化粧をせずメンズファッションで登校し、自分は男であると学友やサークルメンバーに告白した。学生証は辺見優斗で発行されている。彼らは信じざるを得ず、受け入れる者、拒絶する者、気遣うフリをして直視を放棄する者など、反応はさまざまだった。
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