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第55話

「縋るなら、僕に縋って」  八重子の奥を丹念にほぐしていた優斗の指が離れ、八重子のシーツを握る指に絡む。うながされるまま優斗の首に腕を回した八重子は、のしかかった優斗の唇が謝罪の形に動くのを眺め、その理由を考える前に頭の先にまで響く衝撃に仰け反った。 「あ、ああっ」  痛みが走る。痛みから無意識に気をそらそうとしたのか、頭の端が苦しげに顔をゆがめる優斗も美しいと呟いた。 「八重ちゃん……。八重ちゃんと、ひとつになったよ」 「ひ、とつ」  切なげに微笑んだ優斗に抱きしめられ、耳元で繰り返し名を呼ばれながら、八重子は揺さ振られた。痛みの余韻は荒く切ない優斗の息と絡み、喜びに変わった。 「ああ、美優ちゃ……あ、ああっ」  呼びなれないものよりも、繰り返し染み付いた呼び名を零す八重子の唇に、優斗が困ったようにキスをする。それがうれしくて、八重子は彼にしがみつき、心が弾けて溶け合うときまで叫び続けた。  満たされた虚脱感に包まれて、八重子はぼんやりとしていた。目は開いているが、映っているものが何かを認識してはいない。意識にあるのは、素肌に触れるぬくもりだった。  八重子が身を寄せれば、包んでくれる腕に力がこもる。それがうれしくて、八重子はさらに身を寄せた。  八重子の髪に優斗の息がかかる。 「美優ちゃん」  本当に想いが通じたのか確かめたくて、八重子は呼んだ。 「八重ちゃん」  帰ってきた声は美優のもので、そっと見上げた微笑みは、当たり前のようにそばにあり続けたものと同じで、八重子は安堵と幸福に心をとろかせた。 「本名、やっぱり呼びなれないか」 「あ、ごめん」 「いいよ」  軽く弾んだ声で、美優であり優斗である八重子の想い人が額に唇を寄せる。
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