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第52話

 ぎゅっと八重子が腕に力を込めると、美優の腕にも力が込もる。 「謝らなきゃいけないのは、私のほうだよ」  美優のぬくもりに目を伏せて、八重子は胸の中にモヤモヤと抱え続けていたものを吐き出した。 「甘えてばっかりで、ごめんね」  美優に頼りすぎていた自分を、変えなければと思いながら実行できなかったと告白すれば、美優が八重子の肩にキスをする。 「もっと、甘えて欲しい」  顔を上げた美優が、頼もしい光を瞳に湛えて八重子を見つめた。 「もっと、頼って欲しい。――愛してるんだ。八重ちゃんを、誰よりも愛してる」 「……美優ちゃん」  八重子の額に軽く唇を押し当てて、美優が願う。 「本名で、呼ばれたいな」 「本名?」  言われてはじめて、八重子は気付く。女性のフリをしていた美優。本来の名前が“美優”であるはずは無い。 「教えてくれるの?」 「もちろん。これから、男として八重ちゃんを愛そうとしているんだから」  ほわり、と八重子の胸があたたかなものに包まれた。 「知りたい」  美優の本当の名前を知る。それは特別な秘密を共有するようで、八重子はワクワクした。 「教えて。美優ちゃんの本当の名前。男の人として……恋人として、私を愛してくれる人の名前を」  真っ直ぐな八重子の目に唇を落とした美優が、強張った声を出す。 「僕の、本当の名前は――」  言葉を切った美優が、深呼吸をしてから答えた。 「辺見優斗」 「へんみ、ゆうと」  八重子が繰り返せば、優斗が説明する。 「辺見優斗を一文字ずらして、斗辺見優、で、戸辺美優なんだ」
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