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第50話

 八重子には、美優の言葉がふわふわと浮かんで、夢の中の出来事のような印象しか持てなかった。  綺麗で可愛い美優が男だとは、信じられない。ましてや、八重子を無理やりにでも自分のものにしたいなどと。 「いいよ」  うわごとのように、八重子は口にしていた。義英に唇を奪われた時の記憶が蘇る。手を握られた時の不快感が足元からざわざわと這い上がり、それを美優に消して貰えるのだと気付いた八重子は、子どもが抱きしめられるのを望むように、腕を広げた。 「美優ちゃんの一番になれるなら、美優ちゃんの好きにしていいよ」 「八重ちゃん」  美優が息を呑んで、八重子を見つめる。八重子はほんのりとした笑みを浮かべて、美優の当惑と希望の混ざった視線を受け止めた。  本当に綺麗。  八重子は目の前の肢体に、羨望のため息を吐いた。凹凸の少ない滑らかな肌は、年端も行かぬ少女を模したアンティークドールのようだ。 「本当に、いいの?」  美優の問いに、八重子が頷く。不安そうな美優に本気を示すため、ためらいがちに八重子も下着姿となった。 「八重ちゃん」  女性にしては少しハスキーな声。聞き慣れているはずなのに、別人の声に聞こえるのは何故だろう。  八重子は眠りのふちにいるような心地で、美優を見続ける。 「緊張してる?」  労わるように、美優が八重子の頬に触れた。大きな、節のしっかりとした手のひらを感じても、八重子はまだ信じられなかった。 「美優ちゃんが、天使みたいだから」  思ったままを口にすれば、美優がきょとんとして八重子を見下ろす。 「本当だよ。本の中で見た天使みたいに綺麗で、だから……その」 「見惚れてくれたんだ」
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