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第44話

「だって柏木先輩、八重ちゃんと付き合うって。キスもした仲だって、サークルのメンバーに言いふらしてる。私、すごいショックで……それで、八重ちゃんの昨日の電話は、それを言おうとしていたんだって思って。言い出せなくて、返事をくれないんだって。そう、思ったの」  はじめはぎこちなく、だんだん激しく、八重子は首を横に振った。 「違う! 私、違うの。柏木先輩と付き合おうなんて、少しも思ってない」  訴えるように口にすれば、義英の身勝手さに腹が立った。自分は思う通りになると義英に見られていたのかと、悔しさが込み上げる。 「なんて身勝手――っ!」  八重子が本気で怒っていると知り、美優はおそるおそる八重子の顔を覗きこんだ。 「じゃあ、キスをしたっていうのは?」 「それは……」  八重子は激しく目を彷徨わせ、せわしなく膝の上で指を動かしていたが、意を決して背筋をしゃんと伸ばし、美優を見据えた。  彼女に来てもらったのは、想いを伝えようと覚悟を決めたからだ。きっかけがなかなかつかめなかったけれど、今はそのチャンス。  真剣な八重子の様子に、美優もつられて姿勢を正した。しばしの沈黙を置いてから、八重子がゆっくり語りだす。  礼司が美優に話しかけた姿を目撃し、親密そうに見えてショックを受けた事。  ネイルを見た義英と会話をしている時に、キスをされた事。  美優のようにはなれないと泣き出した自分の手を、義英が掴んで学外へ連れ出した事。  そこで義英に、自分と付き合えばいいと言われた事。 「でも私、柏木先輩から逃げ出したの。走って逃げて、美優ちゃんの声が聞きたくなって、電話して」  美優は電話に出なかった。 「美優ちゃんだって用事があるしって思った時に、石渡先輩に話しかけられてた美優ちゃんを思い出したの。もしかしたら美優ちゃん、デートなのかもしれないって」  八重子の喉が詰まり、言葉が途切れた。膝の上でいつの間にか握っていた自分の拳を上向かせ、ネイルを見る。
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