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第42話

 お願い、と八重子は声に出さずに祈り続ける。  来てください。  来ないで。  相反する言葉を繰り返しながら、怖じ気づく自分を持て余した末の手料理が完成した。する事が無くなった八重子は、意味もなく部屋の中を彷徨ったり、テレビを点けたり消したりして過ごした。  スマートフォンは沈黙をしたままだ。  連絡をしたのは夢だったのではないかと、八重子は何度も発信履歴を確認した。留守番電話にきちんと音声が入っていなかったのではないかと不安になり、かけ直そうかと悩み、止めてみるも、メールをしてみようかと文面を打ちかけて消去したりもした。  落ち着かぬ時間を過ごし、料理がそろそろ冷めきりそうな頃合に、インターフォンが最終宣告を示す鐘のように鳴り響いた。  扉を開けた八重子は、美優も緊張をした面持ちである事に驚いた。言葉少なに八重子が招き入れれば、美優はぎこちない動きで玄関に足を踏み入れた。  奇妙な空気が二人を包む。  思い詰めたようにも見える美優の顔は青白く、八重子は自分がこれから告げる事柄を、彼女は察しているのではないかと案じた。  お互いに言いたい事があると気配で告げながら、どちらも口火を切らず、おかしいほどに沈んだ顔で、八重子があたため直した夕食に、美優は無言で箸をつける。ちらちらと様子を伺いながら食べる八重子は、砂を噛むほどの感覚も無いまま、口を動かし食事を終えて、食べ終えた美優の皿も片付けるとコーヒーを淹れ、向かい合った。  膝の上で拳を握り、言い出すタイミングを探してみるが、そんなものが訪れてくれる気配は無い。  覚悟を決めなきゃと思いつつ、唇は糊付けされたように動いてくれない。伝えるために来てもらったのに、こんなんじゃダメだと八重子が自分を叱っていると、美優の声が静寂を払った。 「柏木先輩は、やめたほうがいいと思う」 「え」
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