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第41話

「美優ちゃん」  怯えながらも乞うように、声を震わせた八重子は、スマートフォンに手を伸ばした。電源を入れてしばらくすれば、留守番電話があることと、メールの着信を立て続けに知らされた。そのどれもが美優からのものであると確認した八重子は、喜びと苦痛に胸を満たされる。  こんな自分が、いつまでも美優の傍にいてはいけない。  けれど、ずっと美優と一緒にいたい。  美優の一番になりたい。  美優が欲しい。  それなら、行動をしなければいけない。  八重子は体の隅々まで膨らませるように息を吸い、ゆっくりと吐き出してから着信履歴を開いて折り返す。  コール音が数度続いて、留守番電話センターに繋がった。 「美優ちゃん。連絡ありがとう。話したい事があるの。いつでもいいから、うちに来てくれないかな」  震える声を抑え込み、八重子はアパートの場所を告げた。住所と部屋番号を伝えておけば、地図アプリを使って調べる事が出来る。本当はこちらから出向くべきなのだろうが、八重子はまだ、そこまでの勇気を持つ事が出来なかった。  また、美優ちゃんに甘えてる。  そう認識しながら通話終了のアイコンをタップして、息を吐く。何でも人にまかせ、流されながらひっそりと生きてきた八重子にとって、とてつもなく大きな一歩を踏み出した充足と疲れが圧し掛かった。 「本番は、これから」  励ますように呟いた八重子は、部屋の電気をつけて見回し、まずは掃除をしようと決めた。来てくれないかもしれない。そう思いながら、八重子はあまり散らかっていない部屋を、落ち着かない心を紛らわせるように、丹念に片付けた。  全ての掃除を終えた八重子は、冷蔵庫を開けて食材を確認し、料理を作る。得意ではないが、人並みにはできる。何かしておかないと、落ち着かなかった。
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