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第39話

 電源を切りっぱなしのスマートフォンを、八重子はにらんだ。着信履歴を見た美優は、折り返してくれているだろう。留守番電話にメッセージが入っているかもしれない。  メールをくれているかもと手を伸ばしかけ、八重子は指を迷わせた。  美優からの連絡があったとして、どうするつもりなのかと自分に問いかける。大学を休んだ自分を、美優は気にしてくれているだろう。アパートの場所を教えてはいないけれど、調べて訪ねてくれるかもしれない。  自分の事で、意識をいっぱいにしていてほしい。  なんて愚かで浅ましいんだろうと、八重子は弱々しく自分をあざける笑みを浮かべた。  自分の事なんて、気にしていないかもしれない。一日休んだぐらいで、それほど心配をしてくれるわけがない。昨日、連絡をした時に電話に出なかったのは、礼司と共に過ごしていたからという可能性もある。礼司に話しかけられた時の美優の笑みが、八重子には焦がれたゆえの照れくささに見えていた。  このまま八重子がひっそりとしていれば、美優はやがて別の誰かと仲良くなり、同じネイルをしても似合う人と、楽しく過ごすのではないか。八重子の事など忘れて、華やかな、彼女に似合いの友人や恋人――礼司と共に、日々を送るのだろう。 「そんなの」  血を吐くように、八重子は呟いた。食欲が消え、胃の腑がムカムカとしてくる。あわてて洗面所に向かい、八重子は嘔吐した。細かく肌が震え、骨の芯が凍てついている。  美優が自分を忘れてしまうと想像するだけで、ひりつくような痛みを覚えた。 「いやだよぅ」  渇いた目で、八重子は泣いた。頭を抱え、うずくまる。 「美優ちゃん、美優ちゃん」  今すぐに声を聞きたい。笑顔で「八重ちゃん」と呼んでほしい。でも、それで満足が出来るのだろうか。美優が誰かを優先する姿に、耐えられるのだろうか。礼司に微笑みかける姿を見ただけで、あれほどの衝撃を受けたというのに。 「私……」  八重子は両手を見つめた。赤くなった指に、美優とおそろいのネイルがある。 「美優ちゃんが好き」  呟けば、伝えたくなった。 「美優ちゃん」
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