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第38話

 どうして彼女に恋をしてしまったのだろう。憧れではなく、本物の恋を。  気付かなければ良かったと、八重子は義英を恨んだ。彼が自分に接触をしてこなければ、気付かずにいられたはずだ。美優に想いを求める自分を、知らずに過ごせたのに。 「女の子なのに」  女の子でも。  美優が好きだ。  はっきりと自覚して、八重子は幼子のように泣きじゃくった。身が裂けるほどに欲する相手は、きっとこの想いを嫌悪するだろうという絶望を抱えて。 「美優ちゃん」  憧れのうちでは留まらない想いに、八重子は打ちのめされていた。  カーテンを閉めたままでも、あちらこちらから差し込んでくる日差しのせいで明るかった部屋が、藍色に包まれている。真っ暗ではないのは、アパートの外が人工灯で明るいからだ。  八重子はのろのろと立ち上がり、冷蔵庫を開けて牛乳を取り出し、コップに注いだ。何をする気力も無いが、空腹は感じる。本当にショックなら空腹も感じないのではと思いつつ、料理をする気は起きないので、買い置きのスナック菓子を食べる事にした。  学校を無断で休んでしまった。  アルバイト先には、風邪で熱が下がらないと連絡をしてある。八重子の声は力が無く、仮病だと悟られなかった。  さく、さく……。  スナック菓子を噛む音が、ひどく大きく感じられる。  さく、さく……。  こんなふうに、この想いも噛み砕いて飲み込めてしまえばいいのにと、八重子は太い息を吐いた。気の迷いだと何度も言い聞かせたが、その度に美優の声や笑み、指の感触を思い出して胸が跳ねる。あるいは、切なく痛む。
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