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第37話

 私って、ズルイ。  八重子の気持ちは、底無し沼に落ちたように、ずぶずぶと沈んでいく。美優に声をかけてもらえる資格など、はじめから無かったのだ。 「美優ちゃん」  八重子は爪を見た。愛らしく彩られた、小さな爪。美優とおそろいのネイル。ちっとも自分に似合っていない、洗練された都会的な――。  きっと目を鋭くして、八重子は台所に向かった。これで消えるはずはないとわかっていながら、手指をたわしで力いっぱい擦る。 「こんなもの――」  こんな事をしても、美優に近付けるわけも無い。おそろいのネイルをしたからと言って、美優を自分の傍に引き止められるはずもない。  八重子は歯を食いしばり、皮膚が裂けるのもかまわずに、たわしで擦り続けた。胸が擦り切れるように痛み、涙が溢れる。滲んだ涙に、礼司と美優が笑みを交わす姿が浮かんだ。  美優の気を引きたかった。  うらやましかったのは、礼司だ。美優と並んでも遜色の無い礼司が、うらやましかったのだ。 「こんな想いなんて」  削れて消えてしまえばいいと、心の中で悲痛に叫びながら、八重子はたわしで爪を擦る。けれどネイルは取れなくて、小さな棘が無数に刺さっているように、細やかな痛みを訴える指を握って、八重子は床に座りこんだ。 「美優ちゃん」  どうしてこんな気持ちになるのだろう。友達を相手に、こんなに恋しくなるなんて。 「美優ちゃん、私――」  美優が好きだと、八重子は嗚咽の中で告白した。聞くものの無い、一人暮らしのシンクの傍で。 「美優ちゃん」  かわいいと褒めてくれた美優。  不安がっている八重子の手を、しっかりと握ってくれた美優。  彼女のぬくもりと、魅惑的な声の記憶が、八重子を抱きすくめる。 「どうして」
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