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第35話

 美優にだって都合がある。アルバイトかもしれないと考える八重子の脳裏に、礼司と美優の姿が現れた。熱心な様子の礼司が浮かべる控えめな笑みと、はにかむように口元に手を添えて答える美優。記憶の中の光景に、義英の「その努力を見てもらいたい相手は、礼司?」という声が重なる。  違う、と八重子は否定した。  否定して、気が付いた。  そう。  違っていたのだ。  最初から。  礼司に憧れたのは、彼なら美優の隣にいても、見劣りをしないという理由からだと、八重子は気付いた。  逆だったのだ。 「私……」  八重子は呆然とスマートフォンを眺める。礼司への憧れは、美優という存在が強く影響をしていた。やわらかな雰囲気の美男子である礼司なら、華やかな美優と似合いだろうという意識が、八重子の憧れのはじまりだった。 「そんな」  ではなぜ、ベンチで二人が話をしている姿を見て、ショックを受けたのだろう。似合いだと思っていた二人が、大好きな人と憧れの人が仲良くする姿に、涙したのだろう。  スマートフォンを強く握った八重子の指が、白くなる。丸くて小さな爪には、美優とおそろいのネイルアート。 「ああ」  そうか。  なんて子どもじみた意識だったのだろうと、八重子は自分が恥ずかしくなった。美優を奪われるかもしれないと、怖くなったのだ。美優の一番ではなくなるかもしれないと、怯えていたのだ。  美優が欲しい。  美優の一番でいたい。  美優にふさわしい自分になりたい。  怒涛のように押し寄せる認識に、八重子はめまいを覚えた。
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