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第33話

「え」 「俺と、付き合えばいい」  義英の言葉が、悪寒に似たざわめきを抱えた八重子の意識に浸透しない。 「礼司と系統は違うけどさ。俺もけっこう、いい男だろ」  八重子の胸のざわめきが大きくなった。足元から冷たい風が吹き上がってきたようで、すぐにこの場を立ち去りたくてたまらない。それなのに、八重子の体は心と比例し少しも動いてくれない。 「そんなんじゃ、ないです」 「ん?」 「そういうんじゃ、ないんです」  必死に唇を動かして、喉から言葉を搾り出す。八重子はお腹に力を込めて、縮こまり動けなくなる自分を叱咤した。 「石橋先輩に見てもらいたいからとかじゃ、ないです」 「へえ」  義英が眉を片方だけ持ち上げた。 「じゃあ、何? 女の子がかわいくなろうと努力するのって、男に見てもらいたいからだろ」  八重子はハッとした。  自分の胸に渦巻くモヤモヤとした不快の理由が、彼の言葉で形を持った。  この人は私のためを思っているんじゃない。私のためを装って、自分のための行動をしているんだ。  だから親切が「受け取らなくては」という硬質な感触を持ち、居心地の悪い、じわじわと追い詰められているような印象を受けるのだ。 「違います」  義英は、はじめから八重子を見ていなかった。そう悟ると、きっぱりとした声が出た。 「何が違うんだよ? モテたいからとか、そういう理由だろ。雑誌にもモテカワとか、あおり文句がついているしさ」  八重子は自分の眉間に、深いしわが刻まれたのがわかった。何か言わなくては。そう思うのに、言葉が見つからない。  こんなとき、美優ならなんと言うだろう。
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