28 / 59

第28話

「それよりも、八重ちゃんが他の子たちみたいになっちゃうのは、残念だなぁってほうが強いかな。素朴な八重ちゃん、貴重だから」  貴重、と八重子は口の中で転がす。それは、どういう意味だろう。 「私みたいに、田舎くさい女は珍しいって、言ったらいいじゃないですか」  思うより刺々しい声が出て、八重子は自分に苛立った。義英がきょとんとしながら腰を浮かせ、眉をひそめる。 「八重ちゃん?」  八重子は慣れないネイルに彩られた自分の指に、違和感を持っていた。  美優とネイルサロンに行き、基本デザインは同じものを注文して、爪に合わせたアレンジを加えてもらった。美優の指は彩られる事を素直に受け取っていたが、自分の指は間違って絵の具がついてしまったようだと、仕上がりを見て切なくなった。美優はかわいいと言ってくれたが、八重子は喜んでみせながら、彼女との差が歴然としたようで、胸の裡を重たくした。 「似合わない事くらい、わかっています」 「似合わないなんて、言ってないだろ」  パステルを置いた義英が、画板の紐を首から外す。 「いいんです。似合ってないの、自分が一番わかっていますから」  美優と同じネイルにした事で、互いの差をより強く認識した。  憧れの礼司に声をかけられた美優。  二人が並んだ姿は、とても似合いに見えた。  美優はサークルの中でも目立つほどに美人で、気さくで、朗らかで。  対する自分はといえば……。 「私みたいなのが、美優ちゃんと同じネイルしたって――」  八重子はすっくと立ち上がり、下唇を噛みしめて踵を返した。そのまま走り去ろうと足を動かす前に、強い力に引かれて後方に倒れる。あっと思った時には、あたたかくたくましいものに包まれていた。 「八重ちゃんは、かわいいよ」  耳元に、低く甘やかな声を注がれ、強く抱きしめられて、八重子は義英の腕の中にいるのだと知った。 「八重ちゃんは、かわいい」
いいね
ドキドキ
胸キュン
エロい
切ない
かわいい

ともだちとシェアしよう!