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第27話

「行く」  気がつけば、八重子は短く答えていた。 「いっそのこと、おそろいのネイルにしちゃおっか」 「美優ちゃんに似合うものが、私に似合うかな」 「それは、こっちの台詞だよぉ」  楽しげな美優に、八重子もはしゃいだ声を出す。けれど八重子は、自分の声が空洞に響く別人のもののように感じられた。 「あれ」  ベンチを描いている八重子を描こうと現れ、腰を下ろしかけた義英が手を伸ばした。はじめのころは見られている事に緊張をしていたが、彼の存在が気にならなくなった所で声をかけられ驚く八重子の手を、義英が掴んで覗く。 「爪」 「あ、あの」  うろたえる八重子の手に、残念そうな義英の息がかかる。 「そっかぁ」  何が「そっかぁ」なのかはわからないが、義英はひどく落ち込んだ様子で八重子の手を離し、いつもの場所に落ち着いた。 「……変、ですか」  義英に掴まれた手をかばうように、もう片手で胸元に隠しながら、やはり似合わないのだろうかと、八重子は悲しくなった。 「変じゃないよ」  八重子の落胆など気にも留めない様子で、いつもどおりに戻った義英が、画板を取り出す。 「じゃあ、どうしてため息なんて」 「ん? ああ。八重ちゃんも、染まっちゃうのかなってさ。まあでも、化粧が変わったわけじゃないから」  言いながら、義英がパステルを取り出す。 「絵に影響が出るから、ですか」
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