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第24話

 似たような、落ち着ける場所が無いか探してみようかと考えた八重子の目に、ここからだと木々に囲まれたように見える通りのベンチで、憧れの礼司が美優に話しかけている姿が映った。声は聞こえないが、礼司が控えめな笑顔で、熱心に美優に何かを言っている事は、彼の表情から伝わってくる。応える美優は、はにかむように口元に手を当てて微笑んでいた。  八重子の目は固定されたかのように、少しも動かず二人を映し続ける。  やがて美優がはにかみながら立ち上がり、礼司に導かれてどこかへ――。 「見つけた」  朗らかな声に、八重子はビクリと身を震わせた。それが解除の呪文のように、固定されていた八重子の首が動いて、声の主へと顔が向く。 「ごめん。驚かせた」  謝罪の気配のないまま、親しげに歩み寄ってきたのは義英だった。八重子は軽く首を振り、視線を元の位置に戻す。そこにはもう、礼司も美優もいなかった。  あの二人は、どこに行ったのだろう。 「何を描くの」  向かいの木に体をもたせかけた義英に、八重子はゆるくかぶりを振った。 「場所を先に決めたんです。その……」 「人がいたら、気が散る?」  こくりと八重子が肯定すれば、なるほどねと義英は柔和に唇を歪めた。 「この場所を選んでくれて、感謝だな」 「え」 「落ち着いて八重ちゃんを描ける」  八重子の目が、ゆっくりと大きく開いていく。それに義英が「あれっ」とまたたいた。 「モデル、引き受けてくれるんだろ」  そういえば、そんな話をしたなと思い出し、八重子は断ろうと口を開いた。 「いや、助かった。努力してオシャレしてる子を、かわいいなぁとは思うけどさ。付け睫バリバリだったりされると、モデルとしてはちょっとな」  八重子が音を発する前に、わかるだろうと言うように、義英が目を細めて画板の紐を首にかけた。
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