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第23話

 小首を傾げた美優に見透かされてしまいそうで、八重子は背筋をひやりとさせながら、笑顔を保ち続けた。  疑問の瞳で探るように見ていた美優が、ぱっといつもの笑顔に戻る。 「やりたくなったら、いつでも言ってよ。似合わないって決め付けないでさ。なんでも、やってみればいいんだよ」 「うん」  行こうと促されて学生食堂を後にした八重子の手にはまだ、義英の指の感触が残っていた。  キャンパス内にある図書館前の広場。通称・相馬の散歩道で、サークルの写生会が行われた。写生会と言っても、何時に集まり何時に解散と決まっているわけではなく、この一週間、写生会を行おうと連絡が回ってきただけで、講義の合間など自分たちの好きな時間に好きな場所で、思いついたものを描けばいいというものだった。  描き上がったものは学祭で展示をすると告知され、一週間で出来るわけはないと不満の声も上がったが、出来なかったら学祭までは十分に時間があるのだから、自主延長をすればいいと、会長が試合前の選手を叱咤する体育教師のような様相で言い放ち、文句は一瞬で消え去った。  写真を主にする者はカメラを手に、彫刻などをする者で道具を運べる者はレジャーシートを敷くなりして作業をするという。新入生は、そんな所で活動するのは目立つし恥ずかしいとこぼしていたが、先輩たちは慣れた様子で作業をはじめた。やりはじめてみれば、彼らを注視する学生はほとんどおらず、自分で思うよりも他人は気にしていないという事を、それぞれが実感した。  八重子はちょっとした林になっている、あまり人の足の入らなさそうなところを選び、木の根元に腰を下ろして息を吐いた。気にする人が少ないとは言っても、全く無いというわけではない。通る誰かが気になってしまうので、八重子は描きたい対象ではなく、安心して過ごせる場所から選んだのだった。  落ち着ける場所を見つけた八重子は、さて何を描こうかと視線を巡らせる。前のように、小さな花を見つける事はできなかった。  どうしよう。
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