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第22話

「ほら、行こ」  当たり前のように、美優が八重子の手を取った。細く長い手指に、なぜか義英の手を思い出して、八重子が身を硬くする。疑問を浮かべた美優の目に、ぎこちない笑みを張り付けた八重子がうつむく。 「美優ちゃんみたいに指が長かったら、マニキュアとかしたら素敵なんだろうな」  義英の手を思い出したと同時に浮かんだ、はじめて彼に会ったときに言われた言葉を意識すれば、美優が顔をしかめた。 「どうしたの、八重ちゃん。ほんとに、なんにも無かったの」 「うん。えっと……その。すごく、かわいいネイルをしている人がいて。そういえば、ネイルのためにサークルに入ったんだって、言ってた人がいたなぁって」 「ネイルのためにサークルに?」 「そうそう。色の重ね方とか、イメージとか、そういうのを広げたいって。ありきたりなデザインじゃなくて、オリジナルの感覚がどうのとか言ってたの」  本当は、そんな話をしている人なんていなかった。けれど八重子はとっさに、どこかで見たイラストのネイルアートを記憶に浮かべ、言葉にしていた。関係ないような、忘れるどころか意識すらしていなかった物事が、次々に浮かんで八重子の唇からこぼれ出る。八重子は自分がこんなに、すらすらと嘘がつける事に感心しながら美優を見た。  美優は、繋いだ手を持ち上げて、八重子の爪を眺めた。 「私は、八重ちゃんの手、好きだよ」  滲むような優しさを零す美優の声に、八重子の胸が甘く疼いた。 「柔らかくて、小さくて、守りたいなって思うんだ」 「美優ちゃん」  気恥ずかしさが足元から這い上がり、八重子はきゅっと唇を結んだ。手の甲に唇を寄せられそうな気がして、鼓動が膨らむ。 「八重ちゃん、ネイルしたいの?」 「えっ。――あ、ううん。そういうんじゃなくって。ちょっと思っただけっていうか、なんていうか」 「そうなの?」 「そうそう。私にネイルなんて、似合わないし」 「ふうん」
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