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第20話

 穴があれば隠れてしまいたいが、そんなものがあるはずもなく、八重子は両手で顔を覆った。耳朶に、やわらかな義英の声が届く。 「かわいいなぁ、八重ちゃんは」 「えっ」  思わず顔を上げた八重子の目をしっかりと捉えて、義英はしみじみと告げた。 「かわいいよ」  みるみるうちに、八重子の耳朶が朱に染まる。 「茹蛸だ」 「からかわないでください」  ははは、と軽い音を立てた義英が、八重子の手を取りその上に本を置いた。自分よりも硬く節くれだった手の感触に、八重子の心臓が跳ねる。恐怖にも似た高揚が、八重子を動けなくした。 「あ、あの……」 「八重ちゃんは、変わらないな」 「え」 「歓迎コンパの時のままだ」  うれしそうな義英に、八重子はけげんに眉をひそめた。それに笑みを深くして、義英が八重子の手を本越しに包みこむ。 「大抵の女の子は、周りに感化されて化粧が派手になったりするもんだけど、八重ちゃんは何も変わってない」  義英が前にのめり、八重子はのけぞった。 「うん、いいね」  まっすぐに見つめてくる目に捉えられ、八重子は目をそらす事も声を出す事も出来なかった。 「次の写生会。八重ちゃんを描こう」 「――え」 「いいよな」  有無を言わせぬ声音と、しっかりと握られた手に気圧されて、八重子は頷く事しか出来なかった。 「よかった」
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