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第19話

 ふうんと興味があるのか無いのかわからない返事をして、義英が八重子の本を覗こうとする。ブックカバーをかけてあるので、タイトルや作者が見えないからだろうと、八重子は慌てて内表紙を開いて義英に向けた。 「猫とわたしの……。へぇ。猫、好きなんだ」 「猫、というか、動物は好きです」  どうして声をかけられたのだろう。八重子は気付かれぬよう、少しだけ義英から体を離した。  歓迎コンパの時に、親しげに声をかけられて以来、八重子は自分の思う対人距離の内側に入ってくる義英が苦手だった。彼はサークルの人気者らしく、一人でいる所を見た事が無い。誰かしら、義英に話しかけている。新入生にも義英は好かれていた。世話好きというか、頼りやすいというか、義英は輪から少し遅れている誰かを見つけると、声をかけて引き入れる。とっつきやすい雰囲気があるので、好かれているのもわかるなと、遠くから眺めていて八重子は思った。  自分に話しかけてくれたのは、一人でぽつんとしているように見えたから、気を使ってくれていただけなのかもしれない。いつの間にか途絶えていたが、サークルに入りたての頃に、こまごまとメールをくれていたのも、美優と仲良くなるために、まずは彼女と仲の良い自分と親しくなろうとしての事だと思っていたが、一人になりがちな八重子を気遣ってくれていたのではないだろうか。  そう考えて、悪い人ではないと思うのだが、苦手だという意識は消えなかった。  義英は興味深そうに、八重子の手から本を受け取り、ぱらぱらとめくっている。八重子はそっと義英の様子を伺った。  歓迎コンパの時は驚きと緊張で、きちんと彼の姿を見ていなかった。気を落ち着けて姿を見れば、なんとなく格好いい部類に入るなと思っていたが、間近で見ると女子が騒いでしまうのも、仕方が無いなと納得できる。  憧れの礼司を美麗と称すなら、義英は精悍という言葉がよく似合う。日に焼けた肌に人懐こく輝く瞳。通った鼻筋に、意思の強そうな引き締まった唇。日本人にしては彫が深く、どこか別の国の血が混じっていると言われても、信じてしまうかもしれない。  じっと八重子が見つめていると、義英が本を閉じて返しながら、はにかんだ。 「そんなに熱心に見つめられると、照れるんだけど」 「はっ、あ、すみません」
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