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第18話

「美優ちゃん」  顔が赤くなるのを止められず、八重子が両手を頬に当てれば、笑顔のままの美優の目が、痛みを堪えるように細くなった。 「私も、そうできたらいいのにな」 「えっ」  どういう事かと問う前に、美優が腰を上げる。 「さて、と。私も戻って、美術サークルらしい活動をしてこよっかな。その絵、出来たら私に頂戴」  じゃあねと去る姿は追求を恐れているようで、八重子は小さくなっていく美優の背に、音に出来なかった疑問を投げかけた。  美優ちゃんは、うそをついているの?  それはどんなうそだろう。もっと親しくなれば教えてもらえるのだろうか。 「美優ちゃん」  すっかり姿が見えなくなった美優を呼び、八重子は再び色鉛筆をスケッチブックに走らせた。まるでこの絵が完成すれば、その答えが見えるかのように。  花の絵は約束どおり美優に渡した。額縁を買って飾らなくちゃと美優に言われ、八重子は両手を顔の前で大きく振って、大げさだよと言いながら、それほどに喜んで貰えたことに胸を弾ませた。額縁は大げさかもしれないけれど、画材屋には行きたいから付き合って欲しいと誘われ、待ち合わせ場所の学生食堂で八重子が本を読んでいると、隣のイスが引かれた。  本の中に沈めていた意識がイスを引く音に引き上げられ、それと同じ速度で目をあげれば、美術サークルの先輩、柏木義英がテーブルに肘を着き、面白そうな顔で八重子を眺めていた。  驚きすぎて動きを止めた八重子に、義英が手を伸ばす。 「何、読んでんの」  文庫本をつつかれて、驚きの呪縛から解けた八重子が口元を本で隠して答える。 「あの、短編集です。……ミステリーの」
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