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第15話

 なんだかスッキリとした心地になった八重子は、義英に対する警戒をゆるめた。自分に声をかけ、美優が間に入ると肩をすくめつつも楽しげにしているのは、きっとそういう事なのだろう。  美優に頼らずサークルに参加するか、勇気が持てないのなら行くのを止めるかという悩みから、思わぬ事実が判明した。事実であるかどうか検証はしていないが、間違いは無いだろう。  サークルに顔を出す事をためらわせる理由の一つが解決の兆しを見せた事に満足し、八重子は立ち上がった。軽くなった心でシャワーを浴び、心身ともにサッパリとしてベッドに入ろう。  明日の写生会は美優に腕を引かれる事無く参加できそうだと、八重子は少しうれしくなった。  うらうらと、昼寝を誘う昼下がり。 八重子はスケッチブックを抱えて、木々の間に咲く小さな花を描いていた。目的の中心は皆でのピクニックなのだが、美術サークルとしての活動に意識を置いているメンバーもいる。皆でバーベキューをした後の時間は、それぞれが好きな場所で美術について考察する、という名目の自由行動となっていた。  八重子の憧れている石渡礼司は、絵葉書を作って露店を開き、販売をしているのだという。そのために、何か題材となりそうなものを見つけ、描くのだと言っていた。そこで八重子は、ポストカードに使えそうな題材を描こうと、スケッチブックと色鉛筆を持って参加していた。  目の前の、指先ほどの小さな花は、公園の隅などで見かけた事がある。とても身近でありふれた花のはずなのに、キャンプ場脇の林の中にあると、全くの別物のように感じられた。  私もそうだったらいいのにな、と八重子は思う。  オシャレで垢抜けた人たちの中とは違うように、できれば素敵な方向で別のもののように感じて貰えたなら――。  寂しげな笑いを口辺に漂わせ、八重子は息を吐いた。そんな事を考えたって、はじまらない。まずは目の前の事に集中しようと手を動かす。
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