14 / 59

第14話

「こんなんじゃ、ダメだよね」  八重子はチラリと目を上げて、テーブルの上にあるスマートフォンをにらんだ。サークルの先輩、柏木義英からのメールが入っている。サークルで唯一、八重子に興味を示し、強引に遊びに行こうなどと誘ってくる彼から、美優はいつも守ってくれる。しかし、いつもいつも美優が八重子の傍にいるわけではない。美優が離れた隙に、半ば無理やりアドレス交換をさせられたのだ。そして毎日、八重子にメールが届いている。 おはよう、という挨拶と共に今朝の夢やら何やらと書かれているものから、学校やバイト先の出来事など、内容は他愛も無い物ばかりだった。そして最後には、必ず八重子はどうなのかという一文が添えられていた。  無視をするのも悪いと思い、八重子は律儀に返信をしていた。けれど顔見知り程度の認識しか持っていない相手に、気楽に自分はどうだこうだと送る気にはなれない。最近は読む事すらも憂鬱になるほど、困っていた。 「これも、自分でなんとかしなくちゃだよね」  美優に相談をすれば、サークルの中でも人気者の彼女の事だ。きっと的確なアドバイスをしてくれるだろう。あるいは、義英に止めるよう言ってくれるかもしれない。しかしそれでは、サークルに参加をする後押し以上の甘えを求める事になる。 「話をしてみたら、いい人なのかもしれないし」  押しが強いだけで、悪い人では無いのかもしれないと、八重子はサークルの仲間たちと楽しげに会話をする義英を思い出す。邪険にする美優に対して、嫌な顔ひとつせずイタズラの延長のような調子で接している。  その姿を浮かべた八重子は、とある言葉を閃かせた。 「もしかして」  将を射んとするには、まず馬を射よ。  ぽんと浮かんだ言葉に、八重子は「きっとそうだ」と胸中で頷いた。  美優に直接行くのではなく、まずは陥落しやすそうな自分と仲良くなろうとしているのだ。でなければ、こんなパッとしない自分に、声をかけてくるはずが無い。  自分で思っておきながら、ちょっと傷つきつつ、義英の今までの行動の理由を見つけ、視界が開けたような気になった。
いいね
ドキドキ
胸キュン
エロい
切ない
かわいい

ともだちとシェアしよう!