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第12話

 得意げな美優に「ありがとう」と告げれば、気にしなくていいよと返された。 「私もちょっと、気になる人がいたしねぇ」  意味深な含み笑いを浮かべる美優に、八重子が目を丸くする。 「お互い、青春しよ」  きゅっと手を握られて、八重子はコクリと頭を動かした。  美優の笑顔と握られた手のぬくもりが、八重子の不安を解きほぐし、小さな勇気を与えてくれる。女の子にしては少し大きめの、節のしっかりとした美優の手を握り返し、八重子は安堵と感謝の息を零した。 「八重ちゃんの手は、柔らかいね」  しみじみと言われ、八重子の目が丸くなる。 「それは……太ってるからだよ」  唇を尖らせた八重子が、上目遣いで美優を見れば、あははと美優が軽い声を立てる。 「ぜんぜん、太ってないし」 「でも、美優ちゃんよりは太ってるよ」  モデルと見まごうほどに、美優は細い。美優は少し首を傾げて、包みこむような色を瞳に乗せた。 「やせっぽちより、丸みのある方が男心をそそるって、八重ちゃん知ってた?」 「えっ」  ドキリと八重子の心が跳ねた。艶やかな甘い色のグロスに光る美優の唇が、心の奥をくすぐるように開いて閉じる。その隙間から流れる声は、イタズラっぽい気色の奥に、妖艶さを滲ませていた。  口を薄く開き、丸い目のまま動きを止めた八重子を見つめ、美優が深い息を吐く。 「だから、八重ちゃん。気をつけてね」 「――え。う、うん」  ぎこちなく八重子が答えれば、美優は何かの見本のように微笑んで、くるりと八重子に背を向けた。  自分よりも美優のほうが危ないんじゃないかと思いつつ、言うタイミングを逸した八重子は、先を歩く美優の背を見ながら、ビラをくれた石渡礼司の顔を思い出した。  同性すらも魅了してしまう美優のようであれば、話しかける事も出来たかもしれない。  美優と彼なら、並んでも遜色は無いだろう。
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