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第9話

 全員の自己紹介が終わると、後はただの宴会となった。どんなサークルなのか説明もしないまま、という事に八重子はとまどう。しかし美優は、こんなもんだよと慣れた様子でジンジャーエールを口にした。 「君、美優ちゃんだっけ。可愛いね」 「二人は友達なの?」  礼司の名前を覚えるのに一生懸命で、八重子は声をかけてきた相手の名前がわからなかった。 「美術に興味あるの?」  二人は明らかに美優のみに意識を向けている。八重子はそっとオレンジジュースに口をつけ、礼司に目を向けた。別の学科の、一年だと言った女子と楽しそうに会話をしているのが目に入り、ずしりと心が重くなる。彼に声をかけている子は、ふわふわとした雰囲気で、お人形さんのように可愛い。  私もあれくらい可愛くなれれば、いいのになぁ。  そっとこぼれた八重子のため息が、オレンジジュースに溶けた。 「八重ちゃんがビラをもらって、気になってるみたいだったから、ついてきたの」 「優しいんだねぇ、美優ちゃんは」  八重子の耳に、美優と先輩の声が届く。けれどそれは意味の無い音としてしか、聞こえなかった。八重子の意識は礼司に話しかけている女子に向けられ、他の事がおろそかになっていた。  なので。 「ねえ」  声をかけられて、思わずグラスを落としそうになるほど驚いてしまった。  傍目にもわかるほど身を震わせた八重子に、声をかけてきた相手も驚き、眉を下げた。 「ああ、ごめん。驚かせて」  驚きの衝撃が抜けきらず、八重子はとっさに声が出せなかった。首を振れば、困ったような笑みを浮かべて、声をかけてきた相手が隣に座る。八重子の隣にいた人は、いつのまにか別の席に移動していた。 「改めて自己紹介。俺は、三年の柏木義英。学部は心理学科。よろしく」 「あ。よろしくお願いします」
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