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第8話

 美優がボードを持つ女性に声をかければ、ようこそと笑顔を向けられる。 「教育学科の三宅香苗。三期生よ」 「よろしくねがいします」  美優と八重子を等分に見ながら告げられて、八重子はボソボソと言いながら頭を下げた。 「もうそろそろ開始の時間だし。入ってしまいましょう」  ボードを持った彼女が、皆を先導するように店内に入る。美優と八重子は十数人の集団の最後に扉をくぐり、二階の座敷の入り口近くに腰を落ち着けた。 「で、どの人が八重ちゃんの王子様なの?」  こそこそと美優が耳打ちをしてくる。 「お、王子様って」  小声で返した八重子に、美優がニンマリとした。頬が熱くなるのを感じつつ、八重子は集まった面々に視線を向ける。 「あの、奥から三番目の人」  八重子にビラをくれた人は、隣の席の男子と親しげに言葉を交わしていた。 「ふうん。なるほどねぇ……イケメンじゃん」  軽く肩をぶつけられ、八重子は気恥ずかしさに頬を膨らませた。 「春ですなぁ」  クックと喉を鳴らす美優に、そういうんじゃないってばと八重子は鋭い小声を発した。 「それじゃあ、順番に自己紹介をしていきましょう」  手を打ち鳴らした香苗が音頭を取って、まずは会長からと隣を見た。 「私、あの人が会長だと思ってた」  美優が八重子にささやくと、八重子も小さく同意する。会長は、美術サークルよりも体育会系のサークルが似合いそうな、筋骨たくましい男子だった。  会長の挨拶を皮切りに、副会長、会計――香苗は会計だった――が挨拶をして、学年順に挨拶が行われていく。 「教育学科三年の、石渡礼司です」  ビラをくれた人の名を知り、八重子は忘れないように口内で繰り返し呟いた。  石渡礼司。石渡礼司。石渡礼司。 「名前も、けっこう格好いいじゃん」  美優のからかいに曖昧に頷きながら、八重子は彼の名前を反芻した。
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