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第7話

「決まってるじゃん。予定を書いとくの。ビラを無くしちゃっても、手帳に書いておけば安心だし」 「ええっ」 「ほら早く。私も書くから」  楽しげに自分の手帳を開いた美優に押される形で、八重子は渋々手帳を取り出す。 「一人で集合場所に行くのは、八重ちゃんには辛いよね。十分前に、駅前で集合しよ」 「あ。……うん」  鼻歌を零しそうな美優を見て、八重子は小さな喜びと後ろめたさを胸に抱えた。  ビラをくれた彼と、もう一度会いたい。そのために、わざと美優の関心を引き出したような気がしないでもなかった。むろん、そんな画策を持って、ビラをカバンに入れずにいたわけでは無いのだけれど。 「んふふ。楽しみだねぇ」  うきうきとする美優に、八重子はあいまいに頷いて手帳を眺めた。  待ち合わせよりも十分早く、八重子は駅前に立っていた。膝丈のふわりとしたロングスカートに、薄手のトレーナーを合わせ、お気に入りのニット帽をかぶっている。これが八重子の、せいいっぱいのオシャレだった。  そわそわしていると、おまたせと言いながら美優が現れた。すらりとした足の形に添ったスキニーのパンツに、Vネックのカットソー。薄手のカーディガンを羽織り、パンプスのかかとを鳴らして颯爽と歩いてくる。 「それじゃ、行こうか」  美優に促されて頷いた八重子は、自分と彼女を比べ、気後れした。  コンパに来る人たちの全員が、こんなふうに洗練された人たちばかりだったら、どうしよう。  八重子はスカートを強く握りしめた。  表面的には変わり無く、心の中は重い足取りで、美優と共に集合場所に到着した八重子は、【相馬大学 美術サークル 歓迎コンパ】と書かれたボードを持つ人と、それを囲む人たちの中に、やぼったい格好をしている男子を数人見つけ、自分だけではなかったと安堵した。 「日本文学科の戸辺美優と、高橋八重子です」
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