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第6話

 八重子はビラをしげしげと眺め、彼の柔和な笑みを浮かべながら、歓迎コンパについて記してある場所に目を落とした。  来てくれるとうれしいな、と彼の声が蘇り、真綿で耳をくすぐられたような心地になって肩をすくめる。 「行きたいけど……」  そんな勇気が持てたらいいな、と八重子はビラに吐息をかけた。 「一人じゃ無理なら、私もついてってあげるから」  大学に入ってはじめて出来た友達、戸辺美優が目を輝かせた。場所は食堂。教室に入った八重子に、やっほーと挨拶をしてきた美優が、八重子の手にあるビラに目を止め、それなぁにと問うてきたのだ。来る途中に渡されて、と八重子が言えば、ビラを奪った美優が歓迎コンパの記載を見ながら、参加をするのかと聞いてきた。行くとも行かないともつかない、歯切れの悪い八重子の答えに何かがあると察したらしく、美優は八重子の腕を引っ張り、講義をすっぽかして、ビラにまつわる全てを八重子の重い口から引き出したのだった。 「でも、美優ちゃんは美術とか興味無いでしょ」 「無いよ。無いけど、せっかくビラをもらったんだし。そのビラの彼を見てみたいし」  んふふ、と企むようにゆがめられた美優のつややかな唇に、八重子はうらやみを込めた目を向ける。どうしてこんな野暮ったい自分に、読者モデルも出来そうな美優が声をかけてくれたのだろうかと、八重子は不思議でならなかった。ばっちりとメイクをされた大きな目。愛らしく艶やかな唇。髪は栗色に染められ、いつも綺麗にカールされている。その髪をクルクルと弄ぶ指は、ラインストーン付きのネイルで飾られていた。美優なら、このビラを配っていた先輩と並んでも、しっくりとくるだろう。  美優の傍にいると、自分が酷くみじめで情けない存在に思えてくる。それなのに、美優の隣にいたい。彼女が誰よりも先に声をかける相手でいたいと願っている。  この気持ちは、何なのだろう。  八重子の思い描く“都会”を体言しているような美優が、手のひらを見せる。首を傾げた八重子に「手帳」と言った。 「手帳を、どうするの?」
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