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第4話

 深いため息をつく八重子の周囲で、楽しげな声がはじけている。新入生を勧誘しようと、大学の各サークルがビラを配っているのだ。きらきらとした笑みを浮かべ、ビラを手にして声をかける上級生たち。その誰もがなぜか、八重子には声をかけない。  それもまた、八重子にとって憂鬱のひとつだった。  まあ、渡されたとしても、八重子は行かなかっただろうが。  都会に憧れながら、良く言えばひかえめ、悪く言えば地味という日々を、八重子は過ごしてきた。そんな八重子が都会の大学を受験したのは、ひとえに「大学デビュー」という言葉を信じていたからだった。  大学生になったとたんに垢抜けた、幼馴染のあーちゃん。  三歳年上の幼馴染が、都会の大学に入り、帰省の度に眩しいほど垢抜けていくさまに、八重子は目を丸くした。いったいどうしちゃったのと問うた八重子に、あーちゃんは言ったのだ。  大学デビューする子、けっこう多いよ、と。  それを信じ、自分も都会の大学に出れば何かが変わると思っていた八重子だが、魔法でもあるまいし、気圧されるばかりで踏み出せない自分に、大学デビューなどというものは、どだい無理な話だったのだと、はやくも感じていた。  都会に出れば、自然と垢抜けていけるものだと思っていた。そんな事はないと、心の隅ではわかっていた。自然の景色だって、時間をかけてゆっくりと、季節を進み変わっていくのだ。いきなり垢抜ける事など出来はしないし、踏み出せない自分は、ゆっくりと変化する事すらも無理だろう。  自分の不甲斐なさに、八重子は深いため息をついた。 「暗い顔してるね。もしかして、迷子? 大学の見学に来たのかな。それとも、お姉さんかお兄さんに届け物とか」  化粧っ気も無く髪は真っ黒。丸顔で背があまり高くない八重子は、年よりも幼く見られる。慣れてはいるが、気分を害さないわけではない。少々ムッとしつつ、声をかけられたことに驚きながら顔を上げ、八重子は言葉を放とうとした口の形をそのままに、ぽかんと声の主を見た。  ふんわりとした笑みを浮かべているその人は、一言で言えば「イケメン」だった。テレビや雑誌の中にいそうな容色の彼は、親しげに八重子の顔を覗きこむ。 「どうしたの?」
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