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第12話

「私といるときは、サッカーボールくらいのおおきさなのに」 「それが本来の質量なんだろう」  つまんないと言いたげに頬を膨らませた真彩は、焼き菓子に手を伸ばした。半分に割ってポチの上に乗せると、焼き菓子が沈んで溶けて消えてしまう。 「ポチの口って、どこにあるのかな」 「どこにでも、だな。ポチたちスライムは、体のすべてがどの器官にもなりうる」 「ふうん。なんだっけ、理科の授業でそんな感じの生き物を習った気がする」 「理科?」 「あ、ええと、学校でね」  けげんな顔のグラペウスに、真彩は学校についての説明をした。やさしい顔で聞いている彼の表情は、おだやかなのにさみしそうで、自分とは縁のない遠い世界のことだと無言で示されている気がした。 「この国に、学校はないの?」 「ないな。まず、なにについて教えればいい? 魔物はそれぞれの特性に合った生活を営んでいる。野生動物の暮らしと言えば、想像しやすいか」 「でも、このお茶とか、クッキーみたいなものとか、ご飯だって、作ってくれる人がいるってことは、学校があってもおかしくないんじゃない?」 「それは、そういう役目を負っているだけで、教育とはまた別の話だ」 「そうかなぁ」  納得していない真彩は、クッキーともスコーンとも言えない焼き菓子をかじった。人の世界にあるような食べ物を作っているのなら、人間と似た生活をしているのではないか。それなら学校があったっておかしくはないのにと考える。 「ためしに、学校を作ってみるとか、どうかな」 「なぜだ」 「ええと……ほら、王様がひとりであれこれするんじゃなくって、大臣とかなんとか、いろんな人と手分けしてしたほうがいいんじゃないかなって。独裁者? とかいうのより、合議制……だっけ。よくわからないんだけど、私のいる国って、代表がひとりいて、そのほかに色々と専門分野の大臣がいて、ほかにもいっぱい政治家がいて、それで国を動かしているのよ。そういう感じで役割分担したら、グラペウスも休暇とかできていいんじゃないかなって」 「それが、どうして学校に繋がるんだ?」  意外な話を聞いたというふうに、グラペウスの眉が持ち上がる。ええと、と手を動かしながら、真彩は答えた。 「学校で勉強をして、いろんなことを知った魔物が増えたら、仕事を任せられるでしょう? そうしたら、いろんな意見も聞けて、グラペウスがひとりで考えて色々するより、ずっといいんじゃないかって思ったの。あ、グラペウスが未熟だとか言っているわけじゃないのよ。だって、まだ私、この国のことをよくわかっていないし、グラペウスがどんなことをしているのかも、知らないから。でもなんか、忙しそうっていうか、ひとりでなんでもしているんじゃないかなって思ったのよ」  聞き終えたグラペウスは、顎に手を当てて考え込んだ。返事を待つ真彩は、余計なことを言ったかとヒヤヒヤする。 (不快にさせたんじゃないといいけど)  心配してながめていると、グラペウスは真彩の不安顔に気づいて、手を伸ばした。頭を撫でられ、真彩はホッとする。 「そんなことを、考えたことはなかったな。生活の世話をするものはいるが、王としての仕事をほかのものに分担するなど、思いつきもしなかった」 「王様だって、万能ってわけじゃないでしょう? だから、得意分野の人に任せたら、いいんじゃないかな。そうしたら、ほかのことに目を向ける余裕もできるし」  なにより私と過ごす時間が増えると言いかけて、真彩は口をつぐんだ。 「そのために、学校がいると?」 「そう。だって、勉強をしないと、わからないことがいっぱいあるでしょう」  ふむ、とグラペウスはまた考え込んだ。 (グラペウスは、ひとりぼっちなんじゃないかな)  ここで過ごすようになってから、真彩はそう思うようになっていた。彼とポチのほかに、気配は感じるが姿を見ることはなかった。食事関連以外で、グラペウスがなにかを命じる姿も見ていない。知らないところでやりとりをしているのかもしれないが、そんな気振りはまったく感じられなかった。  グラペウスの瞳のさみしさは、孤独から来ているのではないか。学校の話が出たときに、それを解消する手立てになるのではないかと思いついて言ってみた。 「グラペウス」  どうかな、と彼の顔をのぞいた真彩は、考えから意識を上げたグラペウスのほほえみにキュンとした。キスがしたくなって首を伸ばす。チュッと軽くついばむと、グラペウスの目がまるくなった。なんだかかわいくて、真彩はまた唇を寄せた。 「んっ、ん……ん」  唇を撫でるようにキスをして、彼の首に腕をまわす。彼の孤独を癒すものになりたくて、真彩は彼の膝に体を乗せた。 「んぅ……んっ、ふ……グラペウス……はぁ」  舌先で彼の唇を撫でて、その奥を味わいたいと望む。真彩はなやましい息を、彼の口内に吹き込んだ。グラペウスの唇が開き、舌がじゃれつく。真彩はクスクス笑いながら、彼の舌に舌を絡めた。  子どものたわむれに似た舌の動きは、やがて甘美なダンスに変わる。彼の舌を引き込んだ真彩は、口内の性感帯を引き出されてうっとりとした。 「は、ぁ……ん、んんっ、ふぅ」  グラペウスの紫の瞳が、洞窟内にただよっているやさしい明かりを反射して、妖しくかがやいていた。ドキドキと心音を高めながら、奇妙なやすらぎに包まれて、真彩はグラペウスのキスにとろけた。 「ふ……んっ、んん……はぁ、グラペウス」 「真彩……ん」  キスの合間に交わす甘い呼びかけに、ここがどこなのかも忘れてしまう。意識から相手のほかはすべて消え失せ、真彩はグラペウスの胸にしなだれかかった。  そっと横たえられて、乳房に手を乗せられる。キスをしたまま揉みしだかれて、真彩はかすかな歓喜の悲鳴を上げた。 「あっ、はぁ……あっ、グラペウス……ぁんっ」  ローブもシャツも、グラペウスの肌を隠しているなにもかもが邪魔だ。真彩はローブの留め具を外し、シャツのボタンに手をかけた。グラペウスの指も真彩のドレスのリボンにかかる。互いを脱がしながらキスをして、身をくねらせる。むき出しになった上半身に手のひらを滑らせて、肌の奥に息づく熱をたしかめた 「ああ……グラペウス……あ、あんっ、はぁ……あっ、ああ」  グラペウスの唇が胸に落ちて、彼の頭を抱きしめた。チュウチュウと先端を吸われると、愛おしさがとめどなくあふれ出る。それは真彩の肌を赤く染めて、脚の間を潤わせた。 「んっ、はぁ……ああっ、んっ、んん」  胸の先をたっぷりと濡らしたグラペウスの唇が、もう片方の頂に挑戦する。そちらは彼の舌と遊ぶときを、今か今かと待ち構えていた。  舌先ではじかれた乳頭がよろこびに震えて、もっともっとと催促している。その声が聞こえたのか、グラペウスは軽く歯を立て舌先でチロチロともてあそんだ。胸の芯に快感が走り、背骨を伝って真彩の蜜壺を刺激する。蜜壺はグラペウスの愛撫で満たされ、トロトロと愛液を隘路から女の谷へとあふれさせた。 「んはっ、ぁ、ああ……グラペウス、ああ……あっ、んんっ」  キスと胸への刺激だけで、どうしようもないほどに濡れている。真彩は自分の反応が誇らしかった。愛おしい人の愛撫にこれほど素直に反応できる。それはつまり、想いを形としてグラペウスに示せているということだ。 「ああ、グラペウス……ああっ、あ……はぁ、ああ、あっ」  はやくビショビショに濡れた箇所に触れて、どれだけ求めているのかを確かめてほしかった。真彩は脚を持ち上げて、グラペウスの腰を挟んで引き寄せた。グッと脚に力を込めると、グラペウスの腰に真彩の下肢が近づいた。女の谷を、ふくらんだグラペウスの欲望がかすめる。 「ん、あっ」  ささいな刺激に、真彩は艶やかな声を上げた。腰をくねらせて、そこへの刺激が欲しいと示す真彩を、グラペウスのやさしいまなざしが包んでいる。慈しみに満ちた視線に、真彩は酔った。 「真彩」  吐息と共にささやかれ、真彩は少女めいた笑みを浮かべた。それは指切りをしたときとおなじもので、グラペウスの胸が突かれる。 「真彩」  震える胸を抑えて、グラペウスは愛しい人の名を呼んだ。なにもかも自分のものにしてしまいたい欲望にかられる。真彩は全身でグラペウスを求めていた。ズボンの奥で猛っているものを、真彩は求めている。 「ああ……グラペウス……んっ、ぁあ」  尻を揺らして、真彩はグラペウスを欲しがった。グラペウスは真彩の乳房に顔をうずめて、潤った女の谷に指を沈める。 「んぁっ、あ……はぁあ……あんっ、あ……ああ……は、ぁあう」  長い指はヒダをかき分け、隘路を擦った。とめどなく流れる愛液で、グラペウスの手が濡れる。指は淫猥な音を立てて、真彩の女の花の奥にある濃艶な果実から愛の蜜を搾り取る。 「んは……あっ、ああ……グラペウス、ああ……ねぇ、グラペウス」  あなたをちょうだいと真彩は瞳でうったえた。グラペウスの目は獣欲に鈍く光っている。彼も欲しがってくれているのだと、真彩は胸を昂らせた。  グラペウスの指は前に滑って、ひっそりと見つけられるのを待っていた女核をつまんだ。真彩の目の奥で火花が散る。そのままグリグリと濡れた指で押しつぶされ、捏ねられると、脳髄がはじけるほどの快感に見舞われた。 「んはぁああっ、ああっ、あ……グラペウス……ああっ、あ……あんっ、あ、はぁあっ、あっ、グラペウス……んぁあっ、いやっ、あ、それ……だめっ、あ、ああ」  指の動きから、彼は繋がるつもりはないのだと気がついて、真彩は首を振って彼にすがった。肩に爪が食い込むほど、想いを込めて彼を掴む。 「ふぁあっ、あ……ひ、ぁうっ、んぅうっ、あっ、グラペウス……ちがっ、あ、ああっ」 「気持ちがいいのなら、それに意識をゆだねればいい」 「ひっ、あ……ちが……ぅ、ああっ、いいっ、けど……違うのぉ」  あえぎながら、真彩は必死にうったえた。快楽だけが欲しいのではない。たとえ気持ちがよくなくても、グラペウスと繋がるほうがいい。グラペウスを呑み込めるなら、快感なんてなくていい。彼のかなしみもよろこびもなにもかも、魂ごと存在すべてを膣内で抱きしめたい。 「真彩……真彩……もっと、気持ちよくなればいい。なにもかもを忘れて、快楽に溺れてしまうといい」 「んぁあっ、ちが……ああぅっ、グラペウス……グラペウス……ああっ、いや、あっ、あ」  気持ちとはうらはらに、体は素直に彼の指に応えて淫蕩の極みへ向かっていく。もうだめ、と思うと同時に、真彩は絶頂の叫びを響かせていた。 「んはぁあああああっ!」  ゴプッと多量の愛液がこぼれて、グラペウスの手首までをも濡らした。真彩は腰を浮かせてビクンビクンと痙攣した後、ちいさな声で「どうして」とつぶやき、グラペウスに問う目を向けた。  強すぎる快楽ともどかしい心に苛まれて浮かんだ涙が、苦しげにゆがんだグラペウスの笑みをにじませた。  * * *  ぐったりとして動かなくなった真彩の、ゆるやかに上下する胸に視線を落として、グラペウスは奥歯を噛みしめた。彼女の下肢はグッショリと濡れそぼり、女の肉は熟れていた。グラペウスの下肢は窮屈なほどにズボンを押し上げ、彼女の花を割り開きたがっている。 (落ち着け)  己の獣欲に命じて、グラペウスは深々と息を吐いた。洞窟に響いた真彩の嬌声が、空気に溶けてグラペウスの肺にしみ込み、血液に混ざって流れる。 「真彩」  彼女の愛液で濡れそぼった手をながめ、グラペウスは首を振った。顔をゆがめてこぶしを握り、額に当てる。コツッコツッと額を叩いて、想いと肉体、立場に向けて低くうなった。大型の肉食獣が警戒をしているような音に、ポチがざわめく。尻が揺れて、グラペウスはハッとした。 「怖がらせてしまったか」  ポチを撫でれば、濡れた手が包まれた。ポチが離れれば、濡れた手は渇いていた。真彩の体液を奪われた怒りに、ほんの一瞬体をふくらませたグラペウスは、すぐに気持ちをなだめてため息に変えた。  ポットを手にし、カップに茶をそそぐ。グッと一気に飲み干して息をつくと、意識を失った真彩を見た。 「真彩」  手を伸ばして、しっとりと汗ばんだ頬を撫でる。短い髪に指を這わせて、額に唇を押しつけた。 「真彩」  彼女が欲しい。心の底から……魂ごと食らいたいと望んでいる。欲望のままに彼女の中心に己を突き立て、体の奥に種を植えてしまいたい。契約を交わして命を共有し、おなじ時間の流れを過ごしたい。彼女の歌声を、笑顔を、真彩という名を持つ存在のなにもかもを手に入れたい。 (あきらめろ)  彼女は人間だと、グラペウスは自分を叱る。欲しがってはいけない。あのとき、別れを告げたはずなのに。それなのに未練を残しているなど、情けない。今度こそ、彼女をきっぱりとあきらめなければ。彼女の荷物を取り戻すまでの間に、真彩の想いを味わって、それで満足するべきだ。 「すまない、真彩」  気持ちはうれしい。受け取りたい。喉から手が出るほどに。胃の腑がよじれるほど、愛おしい。心臓を取り出して想いを見せたいほどに、恋しくてたまらない。 (だが、俺は魔王になると決めた……人の世界に降りることなど、許されない)  まだ羽が白いころならば、人になりきって彼女のそばで人間として生きる道もあった。簡単なことではないが、できないことではなかった。しかし魔王を継いだいま、そんなことはできやしない。ともにいるためには、彼女を人ではなくしてしまわなければならない。 「なぜ、俺は……こんなにも真彩が愛おしいのだろうな」  つぶやきは、真彩には届かない。眠る彼女の無防備な姿に、グラペウスは目の奥に痛みをにじませた。 (すべて、俺の弱さが悪い)  思い出さなければ、彼女も思い出さずに済んだ。平穏な人間の一生を歩んでいけた。そこに奇妙なものを持ち込んだのは俺だと、グラペウスは自分を責める。  ゼーロテュピアーの気まぐれに引っかかってしまった少女。妖精の歌を覚えて、使いこなしてしまった人間の子ども。そのせいで、妖精の国にさらわれかけた。それを救って終わりになるはずだった。記憶に蓋をして、別れるだけだった。 「どうして、俺は」  いくら振り返り考えてもわからない。真彩の笑顔に心が疼いた。彼女ともっといたいと願ってしまった。だから彼女の記憶を消さなかった。彼女はグラペウスを天狗と言った。どういうものかは知らないが、羽を持つ異質なものを怖がらないのであれば、身近な存在なのだろうと考えて、それを否定しなかった。それで、真彩に受け入れられるのならば、かまわないと思ってしまった。  友達と遊びたい年頃だろうに、真彩はときどき山に入って「天狗さん」とグラペウスを呼んだ。彼女の声は、なぜかグラペウスの耳によく届いた。どこにいても、かならずグラペウスは呼び声に気づいた。たとえそれが天界であったとしても、真彩の鈴を転がすような愛らしい声は、グラペウスの魂の鼓膜を震わせた。  グラペウスが現れると、真彩はとてもうれしそうに、たわいのない話をした。グラペウスの話も聞きたがった。グラペウスはあたりさわりのない部分だけを語り、真彩は目を好奇心でキラキラさせながら聞いていた。  頬を上気させてグラペウスの話を聞く彼女に、心がとてもなぐさめられた。変わりものと言われ、同族たちともあまり接していなかったグラペウスにとって、気の置けない相手だった。真彩はグラペウスといると、無性に歌いたくなるのだと言って、話の途中でも心のままに妖精の歌を歌った。  妖精の歌は、歌い手の心そのものが旋律となる。真彩の歌は澄んでいて、とても気持ちがよかった。心がふわりとあたたまり、くつろいだ気持ちになれる。よく晴れた青空を飛んでいるときよりも、ずっとおだやかで幸福な心地になれた。  グラペウスに孤独を教えたのは、真彩なのかもしれない。  それまでグラペウスは、自分が孤独であるとは気づけなかった。ほんのりとした疎外感に似たものは持っていた。だれもグラペウスの趣味を理解しない。話を聞くことすらしなかった。変わりものだと言われ、いてもいないもののように扱われた。  それが日常だったグラペウスに、だれかに語るたのしさを教え、だれかの話を聞くよろこびを教えたのは、真彩だった。 「真彩」  自分の核となる部分が、真彩を求めて震えている。彼女がいなければさみしいと、かなしいと言っている。本能で真彩を恋い慕っていた。 「真彩」  なぜ彼女は人間なのだろう。同種族、あるいは魔物であれば、これほど迷いはしなかったのに。 (きっぱりと決別できない俺の心の弱さが悪いんだ)  彼女の想いに甘えている。荷物など、永遠に取り戻せなければいいと願っている。そうすれば、真彩をずっと傍に置いておける。彼女の、人としての時間を奪ってしまう罪悪感に、言い訳が立つ。 「真彩」  想いを込めて、グラペウスは真彩の名を断続的に呼び続けた。愛おしくてたまらない魂を持つ人間。生来の魔物なら、迷うことなく彼女の心臓を喰らっていたかもしれない。あるいは妖精なら、彼女のあるべき生活など気にせずに、心のままに籠の鳥にしていたのではないか。 (真彩を連れ去ろうとした、あの妖精のように)  真彩を傍に置いておきたいと望むのも、人としての生活を奪ってはいけないと考えるのも、発端はおなじ想いからだった。だからこそ、グラペウスは決めかねている。彼女が愛おしく、大切だからこそ迷っていた。 (いっそ、心のままに行動ができたなら)  理性などなくなってしまえばいいと、グラペウスは自分を呪った。
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