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第10話

 うなずいた真彩に、グラペウスはうれしいようなかなしいような、複雑な顔をした。 (グラペウスは迷っている……私を手元に置きたい気持ちがあるんだわ)  しっかりと彼の心を掴まえて、この国で過ごせるようにしなければ。  真彩は周囲を見まわした。姿の見えない魔物たちが真彩を認めれば、グラペウスも観念するはず。  真彩は息を深く吸い、真彩を見ている魔物たちに向けて歌声を響かせた。  歌の種となる感情は、いくらでも湧いてくる。グラペウスとともにいたい。そのために受け入れてほしい。ここで過ごしたい。グラペウスの傍にいたい。  そんな想いが旋律となって、真彩の喉からほとばしる。  歌い切った真彩はグラペウスにしなだれかかった。 「すこし、疲れちゃった」  体中で音を奏でたので、体力を使ってしまった。喉も渇いた。苦笑交じりに訴えた真彩を、グラペウスは抱き上げた。 「ならば、戻ろう」  ポチが真彩の腹に乗る。グラペウスは羽を広げて高く飛んだ。  風を受けながら、真彩は城を見た。星に届くのではと思うほど、高い位置に部屋はある。城というより塔と呼ぶほうがふさわしい。  バルコニーに到着し、グラペウスは羽を消した。どういう原理で羽を出したり消したりできるのだろう。これも魔物の持つ特別な力なのか。 (背中……触ってみたいな)  ポチが真彩から下りて、ザワザワと扉へ向かう。扉の隙間から外に出たポチをながめていると、ベッドに座らされた。 「ねえ、グラペウス」 「うん?」 「こんなに広い部屋なんだから、テーブルとかイスとか、そういうものも用意したらどう? というか、グラペウスはふだん、どこでご飯を食べているの? まさかベッドの上で、なんて言わないわよね」  真彩の質問に、グラペウスはすこし迷ってから、食堂があると答えた。 「そこ、言ってみたい。というか、城のなかも案内して。この城、すごく縦長よね? どんなふうになっているのか、見てみたいわ」 「いや、それは」  ノックがされて、グラペウスが立ち上がる。扉がすこしだけ開いて、ワゴンが部屋に入れられた。ポチがワゴンの下部を押して、ベッドまで運んでくる。 「ありがとう、ポチ。お茶を用意してくれたの?」  ポチはうれしそうに跳ねて、ベッドの下に隠れてしまった。 「注文をしに行っただけだ。スライムは茶を淹れることはできないからな」 「そうなの。あの、お茶をありがとう」  立ち上がって、真彩は扉の向こうにいるだれかに会おうとした。グラペウスの腕にやんわりと止められて、唇を尖らせる。 「お礼をきちんと言いたかったのに」 「ちゃんと、聞こえている。真彩の歌をまた聞かせてやればいい」  パッと真彩は顔を明るくした。 「私の歌を、気に入ってくれているのね」  やはり自分の歌は魔物にも好まれるのだと、真彩はニンマリした。 「喉が渇いているんだろう?」  グラペウスにうながされて、ベッドに戻った真彩は彼の手で注がれたお茶に口をつけた。ふんわりと花の香りのするお茶は、さわやかな後味で喉がさっぱりする。 「これ、おいしい」 「歌った後に、ちょうどいいものをと考えたんだろう」 「気遣ってくれたのね。やっぱり、ちゃんと顔を見てお礼を言いたいなぁ」  つぶやいてねだるように上目遣いをしたが、黙殺されてため息をこぼした。 「あ、ねえ。グラペウスの背中を見せて」 「背中?」 「そう、背中。羽、いまはないでしょう? どうなっているのかなぁって、気になっているの」  ふうむとうなったグラペウスが、真彩に背を向ける。真彩はグラペウスの広い背中に両手を置いた。肩甲骨のふくらみはあるが、羽らしき感触はない。じかに見てみたいと、真彩はローブをまくり上げ、シャツも脱がそうとした。 「真彩?」 「服の上からじゃ、よくわからないから」  グイグイとシャツを引き上げる真彩に、グラペウスは「わかった」と言ってローブを外し、シャツを脱いだ。あらわになった白い肌に、真彩はゴクリと喉を鳴らした。長い白銀の髪をまとめて、右肩にまわした動きがなまめかしい。白いうなじにドキドキして、真彩は深呼吸をした。 「背中、普通ね」  広い背中に手を乗せて、肩甲骨や背骨のラインをたしかめる。羽はどこにあるのだろう。グラペウスの背中は、人間の背中と変わりなかった。 「真彩。すこし離れて」 「え」 「いいから」  よくわからないままに、真彩は言われたとおりにした。するとグラペウスが羽を出す。 「わ」  バサリと広がった漆黒の羽に、真彩は目を見開いた。肩甲骨のあたりから、立派な羽が生えている。真彩は付け根におそるおそる触れた。 (やわらかい)  羽のふんわりとした手触りが気持ちよくて、真彩は羽の間に顔を伏せた。すべらかな肌と、ふわふわの羽に包まれて、とってもしあわせな気分になる。真彩は猫を撫でるように、やさしい手つきで羽の付け根に触れた。 「真彩」 「ん?」 「すこし、くすぐったい」 「もうすこし、撫でていたいの。――いいでしょう」 「……」  返事がないのはかまわないということだと解釈して、真彩はうっとりと羽の手触りをたのしんだ。 「不思議」  さっきまでなかったものが、当然のように存在している。羽はしっくりとグラペウスの背中になじんでいた。 (私も、こんなふうにグラペウスになじみたいな)  吸い込まれるように背中に唇を寄せて、真彩は彼の肌を吸った。彼の背骨に侵入して、そのまま溶けて全身を巡りたい。グラペウスのすべてに寄り添って、彼とおなじ時間を過ごしたい。なにもかもを彼と共有したい。自分のすべてをグラペウスに寄り添わせたい。 (私を奪ってほしい)  首を伸ばして、真彩はグラペウスのうなじを吸った。胎内がかすかに疼いて、女の本能が彼を求める。熱っぽい息を吐いて、真彩はグラペウスの首にキスを繰り返した。 「真彩」  とまどいを含んだグラペウスの声に、真彩は引き寄せられた。彼の耳を唇で噛むと、グラペウスが息を呑んだのがわかった。拒絶ではない。 「グラペウス」  ささやいて耳朶に甘く歯を立てて、グラペウスの肩から胸へ手のひらを下ろした。たくましく盛り上がった胸筋を掴んで。彼の頬にキスをする。 「もっと、グラペウスのいろんなところに触れたい」 「……」 「こっちを向いて」  グラペウスは無言で真彩に従った。真彩はドキドキと心音を高まらせつつ、うっとりと彼の唇に唇で甘える。グラペウスはじっとしたままだった。 「グラペウス……ああ」  艶やかな息で、真彩はグラペウスの肌を撫でた。鎖骨に吸いつき、白い肌にうっ血を残す。赤い印がうらやましくて、真彩はそれになりたくなった。グラペウスと離れられないものになりたい。いっそのこと、彼に食べられてしまいたい。そうして彼とひとつになって、永遠に傍にいたい。ずっとずっと、グラペウスに寄り添っていたい。 「んっ……ん」  胸に唇を滑らせて、乳首に舌を伸ばす。グラペウスはとがめない。真彩はグラペウスの乳首に甘え、腹筋を撫でて腰に手を当てた。ベルトに手をかけても、グラペウスはなにも言わない。この先に触れてもいいのだと、真彩はほほえんだ。 「グラペウス」  歌うように名を呼んで見上げると、紫の瞳は硬く感情を抑え込んでいた。目の前の光景を映してはいるけれど見ていない。グラペウスの葛藤を崩したくて、真彩はベルトとボタンを外して、グラペウスの男の証を取り出した。わずかに硬くなっているそれを両手で包む。 (私とおなじ……グラペウスも興奮をしてくれている)  一方的な想いではないと、真彩は笑みの形にした唇を陰茎に寄せた。 「う……っ」  ちいさなうめきを聞きながら、傘の部分を口に含む。先端をチロチロと舌先でなぞると、グラペウスの息が浅く乱れた。手のなかの熱が硬さを増して、真彩は痛いほどの興奮に心を疼かせた。 「んっ、ふ……ぅ……んんっ、ん」  口内に含んでいるものが愛おしい。グラペウスの素直な部分が反応してくれている。彼を気持ちよくさせられているのだと、真彩はとてもうれしくなった。根元を支える手を動かして、幹を擦りながら頭を上下に動かす。吸いながら舌と上あごで陰茎を擦ると、先端から先走りがにじみ出た。奇妙な味のそれを飲むと、真彩の下腹部がジンワリとあたたまる。 「んっ、ぅ……ふ……んぅうっ」  口のなかが気持ちよくなってきて、真彩は口淫に熱中した。脚の間が疼いて、太ももをすり合わせる。尻を揺らしながら頭を動かし、グラペウスの欲望をさらに高めようとした。 「む……ふ、ぅう……んぅうっ、う……んぅうっ、ぅむ……んっ」  ほおばるグラペウスの熱が脈打ち、先走りの量が増えてくる。彼の極まりが近いのだとわかった真彩は、呑み込めるだけ口に入れて吸い上げた。 「んっ、んんっ、ん……ふはっ、ぁ」  グイッと顔を持ち上げられて、口から陰茎が離される。 「真彩」  劣情をギラギラとたぎらせている紫の瞳を見て、真彩はゾクリと背骨を震わせた。 「……あ」  急速に喉が渇いて、キスが欲しくなる。真彩の望みを察したのか、グラペウスは噛みつくようなキスをした。 「んんっ、ん……んふぅ……んっ、んんっ」  呼気すらも奪うほど乱暴なキスに、真彩は手足をばたつかせた。ドレスの裾がめくれあがり、太ももまでもがあらわになる。グラペウスの手が内ももを滑り上がり、女の谷に指先が触れた。 「んぅうっ」 「もう、濡れて……真彩」 「ふっ、んんっ」  キスの合間にささやかれ、真彩は体を震わせた。快感と羞恥が全身を駆け巡る。性感帯となった口内を舌でまさぐられながら、指先で秘裂を上下にやさしくなぞられると、えもいわれぬ悦楽が波紋のように広がった。 「んっ、ぅ……ふ、ぅうう……んんっ、はぁ、グラペウス」  唇がわずかに離れた瞬間、真彩は愛しい人の名を呼んだ。彼の名を呼びながら貫かれれば、完全にグラペウスのものになれる。たしか、そんな話をした気がする。ゼーロテュピアーも似たことを言っていた。 「ああ……っ、んっ、んぅうっ」  ひざを折り、脚をおおきく開いて真彩はグラペウスを招いた。グラペウスの指は秘裂をなぞるだけで、そこを開こうとしない。 「グラペウス……っ、ぁ、いじわる……しないで」  うずく奥に触れてほしいと真彩が腰を揺らめかせると、グラペウスの瞳がやわらかく細められた。劣情の炎で瞳をギラギラさせているくせに、どうしてこんなに冷静な指使いができるのかと、官能にあぶられている真彩はグラペウスをうらめしく思う。 「真彩」  熱っぽい声を耳に注がれて、真彩はうっとりと目を閉じて顎をそらした。グラペウスの指が沈み、ヒダをまさぐる。二本の指で広げられ、クルクルと円を描くように刺激されると、真彩の腰は自然と浮いた。 「あ、ああ……はっ、んぁ……グラペウス……ああっ、ぁ」  胸の先がツンと尖って震えている。グラペウスの首にしがみついた真彩は、乳房を彼の胸筋に押しつけた。体を揺らすと乳首が擦れる。淡い刺激でも、無いよりはずっといい。 「は、ぁあ……あ、んっ、ああ……グラペウス……ああっ、あ」 「真彩……こんなに、蜜をしたたらせて」 「んんっ、グラペウスのせい……だからっ、ぁ、責任取って!」  快感に潤んだ瞳で、真彩はグラペウスをにらみつけた。クスリと笑ったグラペウスの唇が、真彩の鼻先に落ちる。 「わかった」  甘いささやきに、真彩の心は浮き立った。 (グラペウスがその気になってくれた!)  彼が決心をしてくれたのだと、真彩は満面を笑みとろかせた。 「ああ……グラペウス……はやく、ねぇ」 「ん……真彩」  グラペウスの指が奥へと進み、隘路を撫でる。長い指を抜き差しされて、真彩は嬌声を響かせた。グラペウスの指で奏でられる愉悦に浸り、真彩は湧き上がるよろこびの声を奔放に放ち続ける。緩急をつけて動く指は、ヒダをかき分け蜜を引き出し、真彩の下肢をこれ以上ないというほど潤わせた。 「ああっ、あ……はぁあ、あっ、グラペウス……ああ、もう……っ、んっ、あ、ああ」  女の本能をむき出しにして、真彩はグラペウスを求めた。深い場所に彼を埋めてほしい。彼のかけらを受け止めたい。 「真彩……いい声だ」 「んぁあっ、グラペウス……あっ、ああ……は、ぁあ……あんっ、あっ、あ」  内側をまさぐる指の動きがはやくなり、真彩は断続的な悲鳴を上げた。じゅぷじゅぷと空気と蜜の混ざる淫靡な音が部屋に響き、真彩の嬌声と絡まって濃艶な空気を生み出した。 「はふぅうっ、あ、はぅうっ、グラペウス……はやくっ、あ、はやくぅうっ」  あなたが欲しいとうったえるのに、グラペウスは指を抜かない。獣欲に満たされた瞳で、真彩を見下ろしたまま食らおうとはしなかった。 「んぁあっ、グラペウス……あっ、だめ……やっ、ぁ、だめ」  このままでは、彼とつながらないまま絶頂を迎えてしまう。真彩は首を振った。 「怖いのか」 「ちが……っ、んぁ、グラペウス……お願いっ、ねえ、グラペウス」  あなたが欲しいの――と、口にする前に、真彩は高みへ突き上げられた。 「はっ、あぁああああ――っ!」  目の奥で白い光がはじけて、真彩の意識が遠ざかる。白い世界に羽ばたく意識が最後に見たのは、悔恨と悲哀に満ちたやさしい紫色だった。
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