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第6話

(戻れたら、だけど)  立ち上がって、湖面に散らばっている陽光に目を向けた。星のかけらみたいだと思うと、夜空が意識に浮かんだ。公園で見た空ではなく、夢のなかでながめていた星空。漆黒の羽を広げたグラペウスが現れた、うつくしい夜空だ。 (紳が、グラペウスなんじゃないかって思っていたけど、違ったな)  それじゃあ彼は、何者なのか。真彩は短い髪を、無理やり指に絡めた。グラペウスと会っていた真彩の髪は、とても長かった。あれは遠い過去の記憶で、いまの真彩ではないのだろうか。だとしたら、真彩の前世は人ではなく、だから妖精の歌が歌えて、ゼーロテュピアーにさらわれた。 (なんて……ものすごくファンタジーね)  自嘲気味に唇をゆがめて、散策を再開する。迷子になるかもしれないという不安はない。もうすでに迷子になっているのだから。 (戻る方法なんて、さっぱり思いつけないし)  やみくもに歩いても、ゼーロテュピアーは自分を見つける。なぜか、そんな確信があった。ありがたいとも、ありがたくないとも思わない。それが当たり前だと感じるだけだ。  こんなにキレイな景色なのに、ちっとも心は浮き立たない。なぐさめられもしない。草木の匂いは落ち着くし、すばらしい森だとは思う。けれど、ずっとここで過ごしたくはない。 (もしも、異世界……というか、違う世界で生きていかなきゃいけないのなら)  紫の瞳を胸に描いて、真彩は歩いた。  どのくらい歩いたのか。  ふと視線を上げると、空が不思議な色になっていた。真彩の頭上は真昼の明るさだが、すこし先はオレンジの帯になっている。そしてそのさらに向こうは、星のまたたく夜空が広がっていた。 「なに、これ」  声に出してつぶやいて、真彩は自分が見ているものが錯覚ではないことを確認した。  夜が、向こうに広がっている。  夕方みたいな空を抜けたら、夜の世界に入れるのだろうか。 (もしかして、あっちに行ったら、グラペウスと会える――?)  予感のさざ波が押し寄せてきて、期待をこめて足を踏み出す。  慎重に進めていた足先に、希望めいたものが触れた。心がざわめき、はやくあちらに行きたいと叫んだ。 (グラペウス)  間違いなく、彼はあちら側にいる。  衝動に駆られて走った真彩は、夕方の空にさしかかったところで、つる草に足を取られて倒れ込んだ。 「あっ」 「そっちは行っちゃいけないよ、真彩」  やわらかな声に、真彩の背筋は寒くなった。ゾッとしながら振り向くと、ゼーロテュピアーがニコニコしながら立っている。無邪気な笑顔がとてつもなく恐ろしくて、喉奥でちいさく悲鳴を上げた。 「あっちは違う領域なんだ。夕方を超えちゃいけない。さあ、真彩。戻っておいで」  恐怖を押し込めて、真彩はひきつった笑みを浮かべた。 「どうして? 夜の世界も気になるから、散歩をさせてほしいのだけど」 「ダメだよ。あっちは魔物の住む世界だ。真彩が入ったら、あっという間に食べられてしまうよ。危ないから、こっちにおいで」 「魔物?」 「そう、魔物。悪魔って言った方が、わかりやすいかな」  そんな場所に、グラペウスは住んでいるのか。そう考えた瞬間、真彩の胸はズキリと痛んだ。いますぐにグラペウスを抱きしめたい。彼の瞳の奥のかなしみは、きっとそのせいだろうから。  のろのろと立ち上がった真彩は、なるべくおだやかな口調を心がけて言った。 「この世界のことを、色々と知りたいの。ほら、私、ここで過ごさなくちゃいけないんでしょう? だったら、ちゃんとこの目で確認をしておきたいのよ。ちょっとだけ……ほんのすこし顔をのぞかせて見学したら、すぐに戻るから」 「ダメだよ。魔物はとっても怖いんだから。ちょっと顔をのぞかせただけで、体をまるごと持って行かれて、頭からバリバリ食べられちゃうよ。危ないよ」  危険な場所にグラペウスが住んでいるのなら、なおさらそこに行きたくなって、真彩はかかとをわずかに下げた。 「大丈夫。ちょっとだけ……だから、行かせて!」  パッときびすを返して駆けだした真彩の体に、つる草が巻きついた。夜の世界に伸ばした手にも、つる草が絡みつく。 「あっ」 「聞き分けのない子は、おしおきだよ」  間近にゼーロテュピアーの声があった。ヒッと喉を鳴らした真彩の体に、蛇のようなつる草が這いまわる。ゼーロテュピアーが指を鳴らすと、つる草に花が咲いた。ピンク色のボタンに似た花を、ゼーロテュピアーは握りつぶした。たっぷりと花蜜があふれる。果実を絞ってジュースを作るように、ゼーロテュピアーは花を潰して花蜜を真彩にかけた。むせかえるほどの甘い匂いに、鼻腔が支配される。トロリとした液体に肌を濡らされて、甘美な匂いにクラクラした。  酒酔いに似た陶酔に包まれた真彩の帯に、ゼーロテュピアーの手がかかる。 「俺から逃れられないようにしてあげる」  蠱惑的なささやきに、真彩の肌がさざめいた。スルリと布を落とされて、真彩の裸身が陽光にさらされる。ねっとりとした花蜜を、ゼーロテュピアーに塗り広げられて息を呑んだ。 「ふふ……真彩は、俺の小鳥になるんだよ。かわいい声で啼かせてあげるね」 「いや……あっ、ん」  濡れた指で乳首をつままれ、真彩は下唇を噛んだ。ゾワゾワと悪寒が足元から這い上がってくる。逃れようと身をよじると、つる草に肌を締めつけられた。手足や胴に絡んだつる草に持ち上げられて、逃れられないのだと悟った。  恐怖と羞恥が体中を駆け巡る。ゼーロテュピアーは無邪気な笑みを浮かべたまま、乳首をクリクリともてあそび、花を咲かせては潰して、花蜜で真彩の肌を濡らした。 「ほら、真彩……俺の指で啼いてごらん……妖精の歌とは違うけど、俺のものになるって儀式の歌だと思えばいいよ。ほら、俺の名前を呼んで、感じた声を聞かせてよ」 「んっ、んん……っ、ふ……ん、ぅ、く、ぅんっ」  歯を食いしばり、湧き上がる甘美な心地を拒絶する。花の香りと肌に滲み込む花蜜に、性感を刺激される。快感をふくらませるゼーロテュピアーの指に、真彩は追い詰められた。 「んっ、んぅ……んっ、ん……っ」 「強情だなぁ。まあ、そういうところも気に入っているんだけど……でも、あんまり長く境界にいるのはよくないから、ちょっと乱暴なことをするよ」  歌うように言ったゼーロテュピアーが腕を上げると、脚に絡んでいたつる草が動いた。 「きゃっ……うそ、ちょっと」  おおきく脚を開かれて、真彩は焦った。力を込めて閉じようとしても、つる草はびくともしない。恥ずかしい部分をゼーロテュピアーにさらすポーズにさせられた真彩は、奥歯を噛んで羞恥をこらえた。 「そんな顔しないで、真彩。すぐに、自分からこうしたくなるようになるから。ホントはもっと、時間をかけてたっぷりと教えたかったんだけど、しかたがないね。真彩が悪いんだよ? だけど、うんと気持ちよくしてあげるからね」  ニコニコしながら、ゼーロテュピアーは脚の間に指を伸ばした。秘裂をなぞられた真彩は喉奥でうめき、目を閉じた。クスクス笑うゼーロテュピアーの息が乳房にかかる。花蜜に濡れた乳首が、息のそよぎに反応してちいさく震えた。 「っ、は……あ、ん、ぅう……っ」 「ガマンしないで、真彩。素直に啼けばいいんだよ。これから真彩は、俺のためだけに啼く鳥になるんだからね。さあ、真彩のさえずりを俺に聞かせて」  ゼーロテュピアーは秘裂を割り開き、前方にひっそりと隠れていた蕾に触れた。花蜜をたっぷりと塗りつけられて、薄い膜を取り外されてこねられる。目の奥に火花が散るほどの強すぎる快楽に、真彩はたまらず悲鳴を上げた。 「ひっ、ぁ、ああ……あっ、いや……やめて……ああっ、いやぁ」 「いやじゃなくて、もっとして……でしょう? それとも、気持ちよすぎて怖くなっちゃったのかな。かわいいなぁ、真彩は。大丈夫だよ、真彩。怖がらないで、受け止めちゃえばいいんだよ。そうしたら、とってもたのしくなれるからね」  グリッと強く蕾を絞られた真彩は、たまらず首をのけぞらせて細く高い悲鳴を上げた。空に響く嬌声に、ゼーロテュピアーはうっとりと目を細める。 「うふふ……いい声だなぁ。俺、真彩の声が大好きなんだ。だから妖精の歌を教えたんだよ。それなのに、真彩のおばあさんは歌うなって言って、俺の大好きなものを取りあげちゃった。ひどいよね。真彩だって、歌いたくてしかたなかったんだろう? 髪だって、伸ばしたままでいてくれたなら指を絡めて、もっとはやく連れてこられたのに」 「んぁ……っ、あ、ひ、ぃ、ああっ、いや……あっ、ああ」  敏感な箇所をもてあそぶゼーロテュピアーの指は、自分のセリフにあおられる感情のままに動いて、真彩を翻弄する。快楽の隙間を縫って届く彼の言葉に、真彩は胸をあえがせながら疑問を浮かべた。 (やっぱり……おばあちゃんは知っていたんだ……でも、どうして? なんで、おばあちゃんは妖精のこととか、知っていたの?) 「ほら、真彩……気持ちがいいでしょう? 真彩の蜜もあふれてきたよ。ふふ……おいしそうだねぇ」 「ひぁっ、なにを……やっ、やめて……ねえ、紳さん」  しゃがんだゼーロテュピアーが、濡れた下肢に顔を寄せる。鼻をうごめかせた彼の目に、いたずらめいた光が浮かんで、真彩はおびえた声で彼を拒んだ。 「紳、じゃなくて、ゼーロテュピアーだよ、真彩。ちゃんとした名前を呼んでくれなきゃ、縁を結べないでしょう? まあでもいまは、それよりも……真彩を俺のとりこにして、さっさと境界から離れなくっちゃね」  彼の顔が下肢に伏せられ、真彩は鋭い悲鳴を上げた。ぬらりとしたものに秘裂を割られ、入り口を探られる。獣が水を飲むような音が聞こえて、真彩はブルブル震えながら首を振った。 「いやっ、ぁあ……やめっ、ぁ、やめて……いやっ、いやぁ……っ、やめ……あっ、ああ」  甘美な刺激に恐怖が崩され、意識が浸食されていく。こんな行為はいますぐやめてほしいのに、本能が従おうとしていた。つる草の花蜜の香りに脳が浸され、思考が奪われる。このままでは、なにもかもが支配されてしまう。 「いやっ、いや……やめて、もう、やめて……っ、いや、ぁあ」 「ふふ、真彩の蜜はおいしいね。そんなに怖がらなくても、すぐに俺のとりこになるよ。花の香りをたっぷり吸って、俺を素直に感じてよ。ほら、真彩……どうせ君は、俺から逃げられはしないんだから」 「いやぁああ――っ!」  敏感な場所をひねられて、真彩は絶叫した。その瞬間、体に絡んでいたつる草が音を立ててちぎれ、草の上に放り出された。 「あっ」  痛みにうめいた真彩の体の下に、ザワザワとなにかが這って広がった。キラキラとかがやくそれは、水たまりのようだった。 「こっちの領域に手を出すな!」  全身で怒りを放ったゼーロテュピアーに、真彩は身をすくめた。体をまるめた真彩を、水たまりのようなものは、風呂敷のように端を持ち上げて包んだ。半透明な袋になったものは、ザワザワと動いて夜の下へと移動する。 「行かせるものか!」  腹の底に響くような絶叫とともに、ゼーロテュピアーがつる草を伸ばしてくる。真彩を包んだ水の袋はそれをはじいた。 「待て!」  伸ばされたゼーロテュピアーの爪が袋を破った。 「きゃあっ」  叫んだ真彩に手が届く前に、袋は破れを修復し、ゼーロテュピアーの手をはじき出す。 「おのれ、おのれおのれおのれおのれぇええええ!!!!!!!!」  憤怒の声を響かせるゼーロテュピアーは、まるで悪魔のようだった。夜空の下は魔物の世界と言われたが、彼こそそうだと恐怖に身を縮める。水の袋はザワザワと夕空を走り、ゼーロテュピアーの追撃をかわしながら夜空の下へ入った。 「真彩ぁあああ!」  泣き声が追いかけてくる。しかし彼の手はもう、伸びてこなかった。水の袋は夜の下に来ると厚みを増して、真彩はなにも見ることができなくなった。ザワザワと音がするので、移動をしているのだとはわかる。  いったいどこに運ばれているのだろう。音がするほかは、移動している感覚はまったくなかった。厚みを増した水の袋はやわらかく、ゼリーみたいな手触りがする。ときどき真彩の体を支えるように絡みついて、ちょっとした浮遊感を味わった。  走ったり、飛んだり跳ねたりしながら移動をしている。  真彩はねっとりと体に残っている花蜜に、ジワジワと肌をあぶられ太ももをすり合わせた。無理やり引き出された快楽が、体の芯を火照らせる。はやくこれを洗い流してしまいたい。  ザザザザザっと硬いものが擦れる音がしばらく続き、ふわりと浮いたと感じると、すぐにその感覚は消えて、なんの音もしなくなった。水の袋の天井が割れて、真彩は自分が運ばれた場所を見た。 「ここは……もしかして」  見覚えのある景色に、真彩は呆然と目を見開いた。石造りの城のバルコニー。その奥に天蓋つきのおおきなベッドがある。  真彩はとっさに髪に手を当てた。長くない。 「真彩」  おだやかな、いつくしみに満ちた声に顔を向けると、この部屋の主が膝をついて安堵の笑みを浮かべていた。 「よかった……間に合って」  紫のやさしい瞳に、胸を詰まらせて腕を伸ばした。 「グラペウス!」  夢で会ったその人の胸に、真彩は魂ごと飛び込んだ。
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