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18.夢を見ました

 もふもふのふあふあに包まれて、香子は久しぶりに夢を見た。 (どうして泣いているの?)  中学生ぐらいの少女が泣いている。その少女の側に、それほど大きくはない白い虎が寄り添った。 『ああ、貴方がいたわよね……』  少女は涙をぬぐい、虎を優しく撫でる。そして、『ひどい、方……』と呟くように言った。  少女の様子があまりにも切なくて、香子は胸を打たれた。 (どうしてそんなに哀しいの?)  思わず香子も目頭が熱くなった。 (誰が貴女をそんな風に泣かせたの?)  外見は少女なのにその目がひどく老成しているようにも見えた。 (そんな奴、私が殴り倒しに行くから……だから泣かないで……  ……)  あれ? と香子が思った時には、おぼろげながら目が覚めていた。香子の目覚めに気付いたのか、白虎が身じろぐ。 『……香子(シャンズ)、如何した?』  香子の顔を見て、白虎がぺろりと頬を舐めた。 『……白虎様?』  ぺろぺろと舐められ、香子は戸惑う。 『泣いていた』  そう言われて目元に手を当ててみたが、白虎が舐め取ってくれたのかよくわからなかった。  なんだか夢を見ていたはずなのだが、覚醒するにつれて霧散していってしまった。まるで手のひらから砂がこぼれていくような頼りなさに香子は軽く頭を振る。 『……夢を、見ていたみたいです』  間違いなく夢は見ていたのだと思う。内容までは忘れてしまったが、とても哀しくて切なかった。  白虎はくんくんと香子を嗅いだ。そうして改めて香子を見る。 『……張燕の残り香がするな』 『え?』  言われたことがわからなくて香子は思わず聞き返した。 『母というか……先代の花嫁は我と十年共に過ごしたと言っただろう。もしかしたらそれがそなたに影響したのやもしれぬ』  香子は眉を寄せた。十年という歳月が四神にとって長いのか短いのかはわからない。 (残留思念みたいなものなのかな……?)  そんなこと今までなかったのにと思ったが、先代の花嫁と一緒にいた期間が長いのは白虎なのかもしれないと思い直した。 (あ、でも朱雀様も眷族を産んでもらったって……)  そこまで考えてなんだかいやーな気分になる。確か朱雀は先代の青龍のところに通って眷族を産んでもらったとか言っていたような。もやもやして気にはなったが白虎に聞かないだけの分別はある。どうせ夜は朱雀と過ごすことになっているのだ。その時にでもまとめていろいろ聞こうと思った。 『そうなんですかね? わからないけど……今何時かしら?』  夕方というにはまだ明るい気がするので、昼寝をしてからそれほど時間が経ってないのかもしれなかった。 『夕食にはまだ早い時間であろう』 『そうみたいですね』  身じろげば抱え直される。白虎の毛皮が気持ちよくて香子はされるがままでいた。そんな香子の様子に白虎は苦笑する。 『香子……そなに素直だと、抱いてしまうぞ?』  香子はくすりと笑った。そして白虎を見る。 『白虎様はお優しい方ですから、青龍様に”お預け”させるような真似はしないでしょう?』  確信を持った香子の科白に、白虎は笑う。そうして香子の目を覆うと、一瞬で人の姿に変わった。 『……香子はずるいな』  それが己の欲を抑える為だとわかってはいたが、香子はやっぱり内心がっかりした。 『素朴な疑問なんですが……』 『なんだ?』 『人の姿では私を抱くことはできないんですか?』  白虎は虚をつかれたような表情をして、それからすぐにニヤリとした。 『そうだな……試してみるか?』 『やめておきます、ごめんなさい』  どうしてこう自ら墓穴を掘るのだろうと香子は反省する。 『えーと……聞きたいことはまだいっぱいあるんですけど、整理してから今度聞くことにしますね』 『別に思いついた順に聞かれても構わぬが』  香子は首を振った。今さっきのような質問をまたしかねないのでやめておくことにする。  白虎はその軽口とは裏腹にかなり紳士だった。それが申し訳ないと思っていたら髪に口づけられて香子は慌てた。  四神のイケメンっぷりにはまだまだ慣れないので、不意をつくのはやめてほしいと香子は切実に思うのだった。
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