9 / 11
Act.4-03☆
「課長、欲しい……」
椎名課長の首に両腕を回しながら催促してしまう。
椎名課長は、今私が望んでいるものを必ずくれる。
そう思っていたのに――
「ダメだよ」
否定された。
でも、そのあとですぐ、「ただし」と続けた。
「ふたりきりの時に『課長』と呼ぶのをやめたら望みを叶えるよ。苗字も禁止。俺も下の名前で呼ぶから。――奈波 」
不意打ちもいいところだ。
今まで、下の名前で呼ぶ素振りすらなかったのに。
確かに椎名課長の言うことももっともだ。
正式に付き合うのであれば、課長呼びは無粋にもほどがある。
とはいえ、仕事中にうっかり下の名前を呼ぶ危険性がないとも言いきれない。
私は考えた。
でも、このままでは蛇の生殺しだ。
恐らく、椎名課長も口では強がりを言っていても中途半端なまま終わるのを望んではいない。
「――真都 、さん……?」
下の名前なんて呼び慣れないから、つい、変な疑問符が付いてしまう。
しかも、触れたりキスをした時より恥ずかしくて、椎名課長――もとい、真都さんの胸に顔を埋めてしまった。
「ま、合格かな」
私の身体がふわりと宙に浮く。
考えるまでもなく、私は真都さんに横抱きにされていた。
「続きは場所を移して」
「場所を移す、って……?」
「ここよりベッドの上がいいだろ? それとも、ここで最後までしたい?」
「――ベッドの方が、まだいいです……」
「決まりだな」
顔を上げると、優しく微笑む真都さんと目が合った。
「今まで散々我慢してきたんだ。今夜は奈波を寝かせるつもりはないからそのつもりで」
天使の表情の裏側で、チラリと悪魔が見えた気がした。
甘い誘惑を仕掛けてくる悪魔は、私をどこまで翻弄するつもりなのだろう。
そんなことを考えているうちに、私は抱き上げられたまま寝室へと連れて行かれた。
いいね
ドキドキ
胸キュン
エロい
切ない
かわいい
ともだちとシェアしよう!