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慰撫する唇

 温かい湯に浸かりながら、飛び散った意識のかけらを拾い集めていると、背後からぎゅっと抱きしめられた。それと同時に感覚が戻ってきて、背中に硬い体の感触と熱が伝ってくる。 「麻音子……」  耳にやんわりと押しつけられた唇から漏れた声は、わずかに掠れていた。熱っぽい呼気を浴びたせいか、耳が熱くなる。腰に回された腕に手を添えながらわずかに振り返ると、彼が顔を近づけてきた。濡れた唇が私のそれに重なって、音をたてながら吸い付いてくる。そして名残惜しげに離れていった。 「急には襲わないって言ったじゃないですか……」  つい零してしまったのは、彼へのとがめの言葉だった。 「だって手が届いてしまうんだから仕方がないでしょう? ほら、まだぷっくりしてる。触れて欲しそうに」 「あ……っ」  未だ余韻を引きずったままのところをつままれて、だらしなく開いた足がその痛みと快感のせいでビクッと跳ねた。とっさにそこから逃げようとしたけれど、背後からしっかりと抱かれているので逃げようがない。彼の体に頭を押しつけながら、断続的に与えられる快感に耐えていると、膝だけでなく体が小刻みに震えだした。腰が何かを求めるように勝手に揺れ始めると、動きがいきなり止まった。  ようやく快感から解放されてほっとしたのと同時に、急に快感を取り上げられてしまったことが恨めしかった。彼の指に嬲られた場所が、じんじんと疼いて仕方がない。いっそ差し込まれたままの手を動かして、行き着くところまでいかせてほしかった。そんな(みだ)りがましいことを考えてしまう自分自身が恥ずかしい。だけどそこに差し込まれている手を眺めながら、期待していることも確かだ。だがそんな期待はあっさりと裏切られてしまう。 「駄目ですよ。今はここまでです」  彼が頬を寄せてきた。そしてそこから手がすっと離れていく。火照った体を置き去りにして。度重なる快感によって理性が溶かされかけたせいか、なじるような言葉が自然と口から漏れてしまう。 「……ひどい」  そう言った後彼は頬に唇をそっと押しつけてきた。どうやらなだめようとしているらしいが、キスだけでいら立ちが鎮まるわけがない。一度でも火がつけば、行き着くところまで行かなければ女の体は鎮まらない。それを知っているくせに、それ以上何もしようとしなかった。 「もう、一緒にお風呂は入りません」  わざときつい口調で言ったあと、ぷいと顔を逸らす。今だって本当ならば一緒にお風呂に入るつもりはなかった。だけど龍之介さんにそそのかされてしまったのだ。「一緒に入ってもいたずらはしない」と言っていたくせに、彼のいたずらな指はその約束をあっさり破ったのだから、これくらい強く言ってもいいはずだ。  すると龍之介さんがすっかり無防備になってしまった首筋に吸い付きながら、大きな手で胸をすくい上げた。そしてやわやわと感触を確かめるように揉み始める。その瞬間体の奥が疼いた。漏れる声を抑えられなくなっていく。  音を立てながら首やうなじに吸い付かれ、その心地よさのせいでどんどん思考が溶けていく。自分のものとは思えぬほど甘い声と乱れた息が、温かい湯気が漂う浴室内に響く。そして胸を揉みしだく力とともに、彼の息づかいも荒々しくなっていて、体を捩るごとに触れるものがどんどん堅くなっていた。それに触れるたびに、彼が触れていた場所の奥が熱を持ち、痛いくらいに疼きだす。  切ない痛みは熱とともに全身へと広がっていき、私を欲望の淵へと追い詰めていった。このまま欲望に身を任せてしまえば楽になる。淫らな行為に耽りそうになりながら、それでもなけなしの理性がそれを止めようとする。こんなときの道徳心は、背徳心を駆り立てるものへと変わるらしく、あらがおうとすればするほど快感はより深くなる。激しい快楽の渦に引き込まれそうになりながらも、そうさせないように必死に耐えていると、思いがけない言葉を掛けられた。 「腰をあげて」  その声は掠れていた。言葉の意味が理解できず、龍之介さんに身を任せたままでいると、突然胸の先端をつままれた。触れられてもいないのに、すっかり立ち上がったところに鋭い痛みが走る。それだけじゃなく、電流のような快感が一気に突き抜け、体がのけぞった。 「あ……っ」  そのとき龍之介さんが私のお尻を両手で掴み、わずかに持ち上げた。そしてすとんと降ろされると、足の付け根に堅い感触が。まさかと思いそこを見ると堅くなったものの先端が見えてしまい、とっさに逃げようとしたけれど、できなかった。彼が私の腰をしっかり掴んだまま、腰を揺すり始める。怒張したものと敏感なところが擦れ合い、それに合わせてお風呂の湯が波立ち快感と熱がいや増していく。そしてついに体の奥に溜まった熱と快感が一気に膨れ上がってきて、勢いよくはじけ飛んだ。肌という肌から一斉に汗が噴き出して、全身が小刻みに震え始める。快楽を求めるように腰が勝手に動き出しているのに、それを止められない。襲いかかる絶頂に飲み込まれ我を失いかけていると、背中に何かが触れた。  それはまるで宥めるように優しく触れる。皮膚に触れられるたび、そこからぞくぞくとした震えが走ってきたけれど、まるで慰撫するかのような口付けの感触に体の力が自然と抜けていく。それまで腰を押さえつけていた手の力が和らぎ、包み込まれるように抱きしめられた。 「この続きはベッドでしよう」  絶頂の余韻を追いかけていると、彼の声が聞こえてきた。何も考えずに頷くと、彼が立ち上がろうとする。すっかり体の力が抜けてしまい、腕にしがみついたまま立ち上がると、彼は私の体を抱きしめ歩き出した。
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