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キスは思考をマヒさせる

 急なキスに驚いてしまい、私は瞬きを繰り返した。龍之介先生は顔を傾げて唇を柔らかく重ねている。そしてゆっくりと触れ合わせたあと、啄むようなキスをする。接している彼の体が熱くなってきた。それと同時に思考がゆっくりと溶かされていく。子猫たちの鳴き声が聞こえなくなった替わりに、彼の息遣いがはっきり聞こえるようになっていた。  どんどん頭の中が霞がかってくる。子猫達に御飯をあげなきゃいけないこと。そして彼に夕食を作ってあげなきゃならないことが頭の中から抜けていった。そして体の内側に熱がこもり、そのせいで息苦しくなってくる。次第に息が上がり始め、その息を逃すように唇を開いたとき、そこからぬるりと濡れた舌が入り込んできた。そのとき漏れた彼の息は熱かった。その呼気が唇を掠めたとき、思わず体が震えた。  肉厚の舌がその形を変えて、私の口の中を探り始める。いつもなら遠慮がちに動き回るのに、今日はどういう訳かその動きが速かった。性急ともとれる動きで熱い舌が粘膜に這わされる。そしてひっこめてしまった私の舌に彼の舌が触れたと思ったら、あっ気ないほど簡単にからめとられてしまい、強い力で舐られた。 「ん……っ」  とっさに彼の胸に添えた手で押しのけようとした。でもそれは嫌だからではなく、口付けが深くなったことに驚いたから。だが彼はそのようなことなど知る由がなく、私が声を漏らした直後ぴたりと全ての動きを止めた。ゆっくりと舌と唇が離れていく。すっかり二人の呼気は乱れていた。抱きしめている腕の力が弱くなり、恐る恐る彼を見上げると、彼は申し訳なさそうな顔をしていた。 「すみません。つい……」  唇を見ると濡れている。彼の形のいい唇を濡らしているものが自身の唾液だと思ったとき、急に恥ずかしくなってしまい顔を俯かせた。かっかと体の内側かから発熱しているからか、頬だけじゃなく全身が熱い。体中の皮膚が内側から張りつめているような気がする。じんじんと火照る体を持て余していると、彼がいきなりしゃがみこみ、子猫たちを抱き上げた。  にゃあにゃあと泣いている子猫たちを両手に抱えている彼から、照れくさそうな顔を向けられた。リンダは彼が着ていたスクラブにしがみ付いてよじ登ろうとしているし、アンナはリンダを追いかけるようとしている。それを眺めていると、唐突に尋ねられた。 「リンダとアンナの御飯、一緒に作りましょうか」 「そ、そうですね。じゃあ、ささ身、冷蔵庫から取ってきます」 「お願いします。俺はカリカリを用意しておきますので」 「は、はい……」  そして別々の場所へ向かい、子猫たちの夕食を用意し始めたのだが、体の火照りとどきどきはなかなか収まってくれなかった。 「では本題に入ります」  遅めの夕食をとりおえたあと、普段着に着替えを済ませた彼がまじめな顔で切り出してきた。グレーのニットにジーンズ姿の彼は、ゆったりと足を組んでソファに腰掛けている。その膝の上では満腹になった子猫たちがうとうととし始めていた。 「お父さんから承諾をいただきました」 「はい?」 「お父さんが帰国するまで、つまり来週まで麻音子さんを預かりますと」 「ええっ!?」  予想外の言葉のせいで驚いてしまい、無意識のうちに身を乗り出していた。だが彼は平然としたまま、子猫たちを撫でている。そしてすぐにごろごろと喉を鳴らす音まで聞こえてきて、子猫たちを見ると彼の膝の上で首をひねらせ甘えていた。そんな可愛い仕草を見てしまえば、そちらに意識が向かうのは仕方がないことだと思う。 「お父さんの留守中、あなたをお一人にするわけにはいかないでしょう?」 「え? だって大丈夫ですよ? 今までだって何もなかったし」 「今回も何もないとは限らないでしょう?」 「それに防犯もしっかりしていますよ?」 「ここはもっとしっかりしています」  何をどう言っても無理だった。彼と一緒に住むことが嫌なわけではない。これ以上迷惑を掛けたくなかったからなのだが、それをどうやって伝えようか悩んでいると、彼が眠ってしまった子猫の背中を撫でながらぼそぼそと話し始めた。 「そうしないと不安、なんです。あなたが急にいなくなってしまうんじゃないかって。だから……」  向けられた目を見ると、不安げなものになっていた。そして陰りを帯びている。  思いつめた表情を向けられてしまい、私は頷くことしかできなかった。
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