153 / 205

エッちゃんBAKUDAN ②

「エッちゃん ここに座って」  藤井の声掛けに彼女は薄っすらと目を開けるが、それはまた閉じて藤井のカラダから滑り流れるように彼の席に座った。 そして、机の上に置かれた自分のカバンに真正面からしなだれるように、寄り掛かった。 それまで魂が抜けたように、瞬きもせず口を開けたまま彼らの事を見ていた虹生が、魂を取り戻したように、こう言った。 「かわいいカバンのエッちゃんを、オレがダッコしててあげるよ」  ハッキリとそう聞こえた  ……大変なマジック効果だ…… 虹生に彼女のカバンを取られた悔しさは、俺の心の中だけに収めておこうと思った。  藤井は彼女のそばにしゃがみ彼女の髪を一撫でし、そして彼女のお腹にある手に自分の手を合わせながら静かに言った。彼もまた、いつもの彼ではないような目をしていた。 俺は今までそんな、自愛に満ちた彼の顔を見た事がなく、もしもそんな顔で見つめられてしまったら、彼に対し新しい感情を抱く事になるかもしれない……  そう思った……。 「エッちゃん…ちょっと待っててね ミズキはチョーク教師にどうやら見初められてるようなんだ… チョーク教師との逢瀬が済んだらすぐに戻って来るから、それまでここにいて? 大丈夫、オータくんとナナくんが君のそばにいるから…  大好きだよ… エッちゃん……」  そして藤井は着ていた学ランを彼女にやさしく掛けて、白馬に跨り駆け出して行く王子のように爽やかに教室を出て行った。 『・・・・・・・』  このふたりの模様は、教室にいる者の気をスッカリ引いていたようだ。藤井が出て行った後、なぜか教室内で拍手が湧き起こり、彼らが主演の学園ラブストーリーでも観ていたような気に、いつの間にかなっていたらしい。 藤井も藤井で、ヤツもおかしなモンを持っていると俺は思う  そして残された姫 エッちゃんは、藤井の机にベッタリとまるで息もしていないように上体を預け、一ミリも動かない。 腕の片方を自分の額の下にして、もう片方の手を自分のお腹にあてている。 その手だけが時々開いたり、ギュッと拳を作ったりと動いていた。 ツップしている隙間から時折、目を閉じた彼女の苦しそうな表情が見えた。 そんな様子を小さなこどものように、怯え戸惑いながら俺と虹生は彼女の事を囲むようにただ黙って見ていた。 声を掛けていいものなのか… 気安くそれも出来ない気配を、俺たちは感じていたんだ。 あまりにも普段と今の彼女が違い過ぎて…… ”ただならぬ気配”を感じて………  やがて教室の中は俺たちだけとなり、邪魔するものがなくなったせいで、”ただならぬ気配”の予感は間違っていなかったと…… 聞いてはイケナイようなソレに、俺たちは気付くのだ……
いいね
ドキドキ
胸キュン
エロい
切ない
かわいい

ともだちとシェアしよう!