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第七話

 思いがけない言葉に、クレアは驚きを通り越して開いた口が塞がらない。  言われてみれば、髪の色だけでなく、目の色もよく似ていた。クレアもあの猫と同じく、緑とも青ともつかない不思議な色の瞳をしている。見る角度や明るさでなんとなく色が変わるから、叔父夫婦にはいつも気持ち悪いと言われていた。  それに比べれば猫と同じと言われるのはとても嬉しいが、愛くるしいというのは…… 「あの猫ちゃんが人間になれるのなら、きっともっと愛らしい容姿になると思います。わたしなんて……」  黒と言えない灰色の髪に、緑とも青とも言えない瞳に、青白くて痩せている身体だ。自分でも愛らしいとはとうてい思えない。  なのに、騎士はなおも真面目な面持ちで告げるのだ。 「わたしの目には、あなたは愛らしく可憐に映っているが? その長い髪も大きな瞳も、とても美しい」  おまけに美しいとまで言われてしまい、クレアはじわじわ耳まで真っ赤になった。 「そ、その、ありがとうございます……。あ、あの、わたし、そろそろお暇しなければ」  これ以上この騎士と一緒にいたら、恥ずかしさのあまりのぼせてしまいそうだ。  ただでさえ首筋まで真っ赤になっているのに、これ以上みっともない姿は見せられない。  だが、騎士はそれまでのようにクレアを出口へ案内しようとしなかった。それどころか一歩も動かず、じっとクレアを見下ろしている。なにか気に障ることをしただろうかと、クレアは不安になった。 「あの……?」 「あなたと一緒にいたあの男は、本当はあなたのなんだったのだ?」  唐突に聞かれ、クレアは驚きつつも真面目に答えた。 「その、婚約している方、ですが……」 「そういう雰囲気には見えなかったが」 「……今日初めて会った方だったので。婚約も、保護者である叔父が決めたことですから」  それを彼に告げるのはなぜだか苦しかったか、クレアは素直に答える。  なのに、彼はその答えに納得がいかないらしい。「婚約者……」とぽつりと呟き、いきなり疑いに満ちたまなざしをクレアに向けてきた。 「だが、本当に婚約者なら、そのことをわたしに告げあなたをともに連れ帰ろうとしたはずだ」  きっぱり言われるが、クレアは戸惑ってしまう。  そもそもボードンを足蹴にし、さっさと立ち去れと命じたのはこの騎士だ。弁明出来る雰囲気ではとてもなかった。実際、ボードンはクレアを婚約者だと主張していたのに、彼はそれを聞き入れなかった。 (その上で、あとからそんなふうに言われても困るわ) 「その場で立ち去ったとしても、本当に婚約者なら、わたしがいないところで別の騎士や衛兵に事情を説明し、代理の者があなたを迎えにきてもいい頃だ。それがないということは、あなたは意図的にここに置いて行かれたということではないか?」 「意図的に……? どういうことです?」 「そもそも、あなたが声を上げて助けを求めたのは狂言であって、あなたたち二人は最初から、あなたがここに残ることを想定して動いていた、ということだ」  がんっ、と頭を殴られた気分だ。クレアは再び口をぽかんと開けてしまう。この騎士はなにを言っているのだろう? 「なにをおっしゃっているのか……」 「そうやってとぼけるよう、あの男に指示されているのではないか? 純真を装って、王宮に一人残るために」 「おっしゃっている意味がわかりません。わたしは本当に、あの方に乱暴されそうになって、怖くて助けを求めたのです。その場面をあなたは見ているはずです!」 「それが初めから仕組まれた演技だったら話は別だ」  いきなりどうしてそんな考えが出てくるかわからず、クレアは憤ると同時に混乱した。 「そんなの……滅茶苦茶な理屈です! 横暴だわ」 「横暴だろうとなんだろうと、疑わしき者をこのまま帰すわけにはいかん。王太子殿下の周りに不穏な動きがある今は特に」 「なんですって? 王太子殿下?」  予想もしていなかった人物の名が出てきて、クレアはますます困惑してしまう。  なのに騎士は自分の考えが正しいと疑わないのか、唐突にクレアの腕を掴んできた。  ボードンと違い乱暴な力ではなかったが、大きな手に手首を握られただけで、小柄なクレアは怯んでしまう。 「や、やめてくださいっ」 「このまま突き出されるのが嫌ならおとなしくしてもらおう」  どうしてこんなことになったのか。クレアは泣きそうになりながら、きた道を戻り始める騎士に引きずられていく。  彼の歩みはさほど早くはなく、転びそうになることはなかったが、手首を掴む手からは絶対に離さないという強い意志が感じられた。  よくわからないが、どうやら彼はクレアを、王太子殿下に害を為すために送り込まれた存在だと勘違いしているらしい。  これまでの会話でなぜそんな疑いを持ったのかも謎だが、クレアはただボードンに連れてこられただけだ。叔父夫婦に確認を取ればわかるはず。  自分が潔白であることと、その証拠はすぐに挙がるはずだという思いが、震えそうになる気持ちを奮い立たせていた。
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