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Act.5-03

「俺には、〈遥人〉ってちゃんとした名前がある」 「――ハルト……?」 「そ。〈ハルト〉」  遥人は自分の名前を繰り返してから、続けた。 「似たような名前だけどな。けど、正直言って、俺の名前じゃない名前を呼ばれてもあんまり嬉しくないっつうか……。トキネには理解出来ないかもしれねえけど、俺は俺であって〈ハルヒト〉じゃないんだ。  〈ハルヒト〉はもういない。今いるのは、トキネのためだけの〈ハルト〉だ」  自分でも何を言っているのかと、遥人は心の中で思った。  だが、例え無理矢理であっても、ハルヒトはもう、この世に存在しないのだと、トキネに強く訴えたかった。 「――ハルト、さま……」  躊躇いがちに、トキネが遥人の名前を口にする。  遥人は、「〈さま〉はいらねえよ」と笑いを含みながら言った。 「俺はごく普通の一般民だ。呼び捨てで呼ばれた方がよっぽど気楽でいい」 「ですが……」 「いいから」  もう一度呼んでみろ、と促すと、トキネは困り果てていたが、ついに諦めたように、「ハルト」と名前を紡いだ。 「トキネ」  トキネに応えるように、遥人もまた、トキネの名前を呼び、その唇に自らのそれを重ね合わせる。  トキネは体温を持たない。  それなのに、口付けの感触は不思議と温かみがあった。 「俺はいつでも、トキネを見守ってやるから……」  幸せにする、とはさすがに言えなかった。  しかし、見守ることなら、この身が朽ち果てるまで出来る。  遥人はそう思い、精いっぱいの想いを伝えた。  トキネは遥人を真っ直ぐに見つめ、口元に笑みを湛える。  きっと、それがトキネの遥人に対しての答えなのだろう。  ◆◇◆◇◆◇  緩やかな風に吹かれ、花びらがはらはらと舞い降りる。  運命に逆らえない恋人を憂えてか、それとも、いつか幸せが訪れることを願っているのか、薄紅色のかけらで優しくふたりを包み込んでゆく―― [儚き君へ永久の愛を-End]
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