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Act.5-02

 兄妹とは知らずに出逢った、ハルヒトとトキネ。  しかし、その偶然の出逢いは、残酷過ぎる運命を突き付けるための必然だったのだろうか。 『――運命とは、非常に残酷なものです……』  初めて遥人がトキネと出逢った時も、夢の中でも、トキネは言っていた。  互いを想い、慈しみ合う気持ちは同じ。  それなのに、運命には逆らえずに引き裂かれてしまった。 「――わたくしは……」  遥人に全身を預ける格好で、トキネは静かに続けた。 「ハルヒトさまと最後の逢瀬のあと、間もなく永遠の眠りに就きました。ハルヒトさまと結ばれることが叶わないと知り、わたくしはもう、生きる意味さえ失ってしまったのです……」  トキネの肩が、小さく震え出した。  途切れがちに嗚咽も聴こえてくる。  トキネに、どんな最期を迎えたかなど訊けない。  しかし、生きる意味さえ失ってしまった、という言葉から、トキネは自ら命を絶ったのだと察した。  ハルヒトと出逢いを果たした、この桜の下で――  どんな理由であれ、トキネは〈自害〉という大罪を犯した。  恐らく、これからも生まれ変わることは叶わないだろう。 (それでも、生まれ変われることを信じてるのか……?)  初めて逢った時、トキネは遥人に、今度こそ添い遂げられるように、と言っていた。  出来ることなら、トキネの願いを叶えたい。  だが、遥人はただの人間であまりにも無力だ。  ただ、トキネを強く抱き締めてあげることが精いっぱいだった。 「わたくし、今、最高に幸せです」  遥人の胸に顔を埋めながら、消え入るような声でトキネが言う。 「本当は不安で堪りませんでした。わたくしは、あなたを一目見て、ハルヒトさまだとすぐに察しましたが、あなたはずっと、わたくしを想い出して下さらないのではないかと……。いえ、想い出していなかったとしても良いのです。こうして、ハルヒトさまの温もりを感じられるだけで……」 「――俺は、〈ハルヒト〉じゃないよ」  遥人は思わず口にした。  トキネが、弾かれたように顔を上げる。  涙で濡れたつぶらな双眸を真っ直ぐに向け、不思議そうに首を傾げた。  トキネにまともに見つめられた遥人は、微苦笑を浮かべる。
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