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Act.4-03

「――運命とは、非常に残酷なものです……」  それまで黙って抱かれていたトキネが、くぐもった声で訥々と語り出した。 「わたくしはずっと、あなたを――ハルヒトさまをお慕いしておりました。ハルヒトさま以外の方の元へ嫁ぐ気は全くございませんでした。――それなのに、急にハルヒトさまがわたしくの兄だと申されても……、受け入れられるわけが……、ございま……」  そこまで言いかけて、トキネから微かな嗚咽が漏れてきた。  肩を小さく震わせ、〈ハルヒト〉と呼ばれた青年の胸元に顔を押し付ける。  ハルヒトは何も言わなかった。  ただ、幼子のように泣きじゃくるトキネの頭に自らの顎を載せ、先ほどよりも強く抱き締める。  遥人の目の前でトキネを抱いているのは、過去の遥人。  察したものの、まだ実感が湧いていない。  代わりに、どんな理由であれ、トキネを傷付け、哀しみのどん底に突き落としたハルヒトに対し、言いようのない憤りを覚えた。  もちろん、ハルヒトもハルヒトで苦しんでいるに違いないが、トキネに比べたら大した傷ではないだろう。  遥人は心の底から思った。  やがて、トキネがハルヒトの身体を押しのけた。  瞳は痛々しいほど涙で濡れている。 「ごめんなさい。取り乱してしまって……」  そう言いながら、トキネは着物の袖で自らの口元を覆った。 「分かっているのです。どんなに泣いて縋っても、ハルヒトさまと結ばれることは決して叶わないことぐらい。ですが、今だけでも、ハルヒトさまに寄り添いたかったのです……」 「トキネ……」  トキネの名を口にし、ハルヒトは手を差し伸べたが、トキネはそれを、そっと振り払った。 「わたくしのことは、どうかお忘れ下さい。先ほども申したでしょう? わたくし達が逢うことで、周りを苦しめてしまう、と。ですから、二度と……」  そこで、トキネはハルヒトに向けてニッコリと微笑んだ。  遥人も初めて見る、最高の幸せに満ち溢れた笑顔だった。
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