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Act.3-05

 こうして話しているうちに分かってきた。  トキネは無垢だ。  無垢だからこそ、周りを静かに追い詰め、傷付けていたのではないだろうか。 (悪気がねえからこそよけいに残酷だ……)  至って冷静に遥人は考える。  そして、やはり自分はトキネにからかわれているだけじゃないかと、疑いを持ってしまう。  気付くと、辺りは完全に夜へと姿を変えていた。  八分咲きの薄紅色の桜は暗闇の中でほんのりと色付き、緩やかな風に煽られ、花びらがひらりと舞う。 「――まだ、想い出して下さいませんか?」  クスクスと笑い続けていたトキネが、真顔になって遥人を真っ直ぐに見据えてきた。  トキネにまともに見つめられ、遥人は内心うろたえる。  だが、自分の〈過去〉の記憶は全く想い出せないから、ゆっくりと首を縦に動かした。 「そう、ですよね……」  トキネの表情に翳りが差した。  考えるまでもなく、遥人の記憶が戻っていないことなど分かっていたはずだ。  それでも、確認せずにはいられなかったのだろう。 「もう少しだけ、時間をくれないか……?」  そう答えるのが精いっぱいだった。  遥人の思った通り、トキネは少し哀しげに笑みを浮かべる。 「ええ……」  短く答えると、遥人から視線を外し、桜の木を仰いだ。
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