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Act.1-03

「――やっぱり……」  夜の静寂に溶け込んでしまいそうな声音で、少女は囁く。  だが、遥人には、少女が『やっぱり』と口にした意味が分からない。  訝しく思いながら首を傾げる遥人に、少女は哀しげな笑みを向けてきた。 「まだ、想い出して下さらないのですね……?」  少女の言葉に、遥人はさらに戸惑いを覚えた。  少女とは初対面。いや、そもそも幽霊と関わりがあるはずがない。  しかも、少女の姿を見る限り、遥人が生まれるずっと昔の人間だ。  想像するに、数十年――いや、数百年は経っているはず。 「あのさ」  遥人はおもむろに口を動かした。 「俺、あんたとどこかで逢った?」  遥人の問いに、少女は曖昧に笑う。  やはり、どこか淋しさを帯びている。 「――運命とは、非常に残酷なものです……」  少女がポツリと呟いた。  遥人を知っている理由を教えてくれるのかと思ったが、少女の口から出たのは、答えとは全く関係のないものだった。 「わたくしはずっと、あなたを待ち続けておりました。何度も、何度も、季節を重ねながら……。そうして、ようやく出逢えました。――あなたと、今度こそ添い遂げられるように……」  何言ってんだ、と遥人は笑い飛ばすつもりだった。  しかし、出来なかった。  少女は真っ直ぐに遥人を見据え、遥人もまた、少女に釘付けとなる。  また、ふたりの間に沈黙が流れた。  春先のひんやりとした風がさわさわと吹き、遥人の全身を掠め、少女の長い髪を緩やかに凪いでゆく。  しばらくして、遥人の頬に触れていた少女の手がゆっくりと離れた。 「もう少しだけ、待たねばならないようですね」  少女はそう言うと、口元に笑みを湛えた。 「わたくしは、ずっとここにいます。ですから……、また、こうして逢いに来て下さいますか……?」 「――うん」  ほとんど無意識に、遥人は頷いていた。  少女に逢う理由なんてない。  ないはずなのに、何故か、これからも少女と逢わなくてはならない。  そんな気がした。  困惑している遥人とは対照的に、少女は先ほどとは打って変わり、嬉しそうに満面の笑みを見せた。 「わたくし、待っております。あなたが、わたくしを想い出して下さるまで、ずっと……」
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